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省エネ・創エネソリューション

カーボンニュートラル実現に向けて

3月3~5日に東京ビッグサイトで開催された「スマートエネルギーWeek」(主催=リードエグジビションジャパン)。多くの人が省エネ、創エネ提案に関心を寄せていた

昨年10月の所信表明演説にて菅義偉内閣総理大臣が、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言して以降、「カーボンニュートラル」「脱炭素」というワードに注目が集まっている。今回はカーボンニュートラル宣言の背景や、温室効果ガス排出抑制に貢献する省エネ・創エネの各社の提案を紹介する。


カーボンニュートラルとは、カーボン(炭素)、ニュートラル(中立)の言葉からわかるように、排出される炭素(CO2をはじめとする温室効果ガス)の量と、森林などによる吸収量を差し引いてゼロを達成することを意味している。  企業や家庭で排出する温室効果ガスを省エネルギー化や再生可能エネルギーの利用により削減し、ゼロにしきれない分を、植林や森林保護などでプラスマイナスゼロにするという考えだ。

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日本政府はこれまで、「今世紀後半のできるだけ早い時期に脱炭素社会を実現することを目指す」としていたが、菅総理の所信表明演説にて初めて、具体的な時期を設定した。

加えて菅総理は「温暖化への対応を、経済成長の制約やコストとする時代は終わり、成長の機会と捉える時代に突入した」とし、積極的に対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながっていくと説明した。

昨年末には、経済産業省らが「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定。経産省は、「菅政権が掲げる2050年カーボンニュートラルへの挑戦を、『経済と環境の好循環』につなげるための産業政策だ」と説明する。

このグリーン成長戦略では、洋上風力、水素、自動車・蓄電池、土木インフラ、半導体・情報通信産業など、14の重要分野ごとに目標を掲げ、予算、税、規制改革・標準化、国際連携といった政策を盛り込んだ。

「この戦略を、着実に実施するとともに、更なる改訂に向けて、関係省庁と連携し、目標や対策の更なる深掘りを検討していく」(経産省)

■環境対策イコール経済対策

ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次氏(総合政策研究部 研究理事 チーフエコノミスト・経済研究部兼任)は、「デジタル化推進と合わせて、日本復活の起爆剤にしようとの構想が、今回のカーボンニュートラル宣言の裏にある」と話す。

日本経済は、昨年45月を底に持ち直しの向きにあるが、依然、力強さを欠いた状態にある。「気になるのは、日本の競争力や将来の供給力にもかかわる設備投資の弱さだ。79月期の設備投資は、前期比34%減と2四半期連続で減少した。そこで、コロナ禍で停滞した社会を、環境投資で立て直そうという『グリーンリカバリー』に期待が集まっている」。


世界で進む「グリーン戦略」


これらの動きは世界的に広がりをみせている。経産省の資料によると、120日時点で日本を含む124カ国・1地域が、2050年までのカーボンニュートラル実現を表明している。これらの国の世界全体のCO2

排出量に占める割合は377%だ(17年実績)。中国も2060年までのカーボンニュートラルの実現を表明した。

そして各国で、グリーンリカバリーを意識したカーボンニュートラル施策が打ち出されている(表)。

欧州では「欧州グリーン・ディール戦略」を推進している。環境対策を成長戦略にも位置づけ、今後10年間で総額1兆ユーロもの資金を、再生可能エネルギーなどに投じる計画だ。

米国でも、バイデン大統領が、「今後4年間で2兆ドルをクリーン・エネルギーなどのインフラに投資する」という計画を発表している。

「イノベーションは、民間が起こすものであるが、新たな社会に移行するとの政府の強い意志が見えないと、民間はなかなか動けない。ましてや、カーボンニュートラルの実現には、単なるイノベーションではなく、革新的イノベーションを起こして、社会構造を抜本的に転換する必要がある」(矢嶋氏)。

欧米では、企業レベルでの取り組みもすでに始まっている。

アップル(カリフォルニア州クパティーノ)は、昨年7月、「サプライチェーンや製品ライフサイクルにおける温室効果ガスの排出量を2030年までに実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指す」と発表した。

2050年よりも20年前倒しのこの目標に、すでに日本を含む世界17カ国70社以上のサプライヤーが同意している。

同社のティム・クックCEOは「企業には、より持続可能な未来を構築するために取り組む大きな責任がある。気候変動に対するアクションは、新時代のイノベーション、雇用創出、持続的な経済成長の礎になり得る。この取り組みが波及効果をもたらし、社会に大きな変化を生み出すことを期待する」と話す。

近年、「ESG(環境・社会・企業統治)投資」が世界的に急拡大している。そのため企業がカーボンニュートラルに取り組むことは、環境配慮だけでなく、投資家からの評価にも影響を与えるといえる。

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■温暖化ガスの排出に価格付け

企業がカーボンニュートラルに取り組まなければならない理由は他にもある。日本政府が導入に向け検討を進めている「カーボンプライシング」(CP)もその一つだ。CO2排出量に価格を付け、企業や家庭にお金を負担してもらうもの。炭素税、排出枠取引、国境調整措置の導入が検討されている。

すでに企業ごとに排出量の上限を決め、超過する企業と下回る企業との間で排出量を売買する排出枠取引は、東京都や埼玉県などの一部地域で導入されている。政府はこれらの取り組みを本格化し、CO2排出削減につなげる考えだ。

■自動車に課されるLCA

欧州では、自動車の環境規制にLCAを導入する議論が検討されているという話もある。

LCAとはライフ・サイクル・アセスメントの頭文字で、製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取、原料生産、製品生産、流通・消費、廃棄・リサイクル)における環境負荷を定量的に評価する手法だ。

(一社)日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、「カーボンニュートラルの実現は自動車産業の役割だ」と話す。しかし、「LCAは、自動車生産にかかわる一連のCO2排出量が評価される。そのため、エネルギー政策と産業政策をセットで考えることが重要だ。いかにクリーンな車を開発したとしても、開発、製造などの工程でCO2を排出していると評価されない」と訴える。

多くの国がカーボンニュートラルの実現に向けて舵を切っている。世界で異常気象が相次いでおり、気候変動への対応は喫緊の課題だ。

2020年は新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中で都市のロックダウンやステイホームが行われ、人の移動や経済活動が制限された。それにより、CO2

排出量が世界で約7%減少したという報告もある。コロナ前と同じ生活や企業活動に戻るのではなく、いかにイノベーションを起こせるかがカーボンニュートラル実現の鍵になりそうだ。