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Opinion

日本貿易振興機構(ジェトロ) DX推進チーム 主幹 宮﨑 拓 氏

今こそ海外スタートアップとの協業を

新興企業が世界の技術革新をリードする時代になった。ビッグ・テックと呼ばれる米国の巨大IT企業の時価総額は日本のGDPを抜き去り、インドやASEANなど新興国でも勢いのあるスタートアップが勃興する。世界のバリューチェーンはもはや彼ら抜きに語れない状況だ。そんな存在感を増す海外スタートアップ等と日本企業の協業を支援すべく、日本貿易振興機構(ジェトロ)が昨年新たなビジネスプラットフォーム「ジャパン・イノベーション・ブリッジ(J︱Bridge)」を立ち上げた。本紙はジェトロDX推進チーム主幹 宮﨑拓氏ら3人に、J︱Bridgeの狙いやアジアのスタートアップ等との協業による可能性を聞いた。

左より
ジェトロDX推進チーム 主幹 宮﨑 拓 氏
ジェトロ DX推進チーム 課長代理 水野 桂輔 氏
ジェトロDX推進チーム 小沼 千晴 氏

成長の果実を日本に還元

――J-Bridgeの概要を教えてください。

DX推進チーム 主幹 宮﨑拓 氏 ジェトロが20212月に立ち上げたビジネスプラットフォームです。ミッションは日本企業と海外企業を結び付け、国境を越えたオープンイノベーションの創出をサポートすること。業務提携や技術提携、ジョイントベンチャーの設立支援等を通じ、最終的に新たなビジネスの創出を目指します。海外の有力スタートアップ等の情報提供や年100回ペースのイベント開催、マッチング支援やコンサルテーションを組み合わせた一貫支援まで、段階に応じた多様なサービスを提供します。

――日本にもスタートアップはありますが、とりわけ海外スタートアップとの協業を支援する狙いは。

宮﨑 もちろん国内にも優れたスタートアップはたくさんあるわけですが、世界にはさらに多くの有望スタートアップやユニコーンも存在します。ましてやアジアなど新興国は成長余力も大きく、天才的な発想でイノベーションを起こし成長する新興企業が各地で出現しています。日本の中で閉じていては、その技術やビジネスモデルそして市場を取り入れられず、世界のバリューチェーンから孤立・阻害される事態にもなりかねません。国内市場が成熟するなか、バリューチェーンの枠組みに日本をしっかり組み込むことで世界のイノベーションの好循環に入り込む。そしてそこで得た果実を日本に還流することが必要です。

――協業例は。

DX推進チーム 課長代理 水野 桂輔 氏 例えば日本の化学品商社とそのパートナーである日本のスタートアップ、ベトナムの物流スタートアップLOGIVAN3者協業があります。LOGIVANは荷主と配送業者のマッチングアプリを展開しており、物流効率化による温室効果ガスの削減を目指します。日本の商社が資源再生を手掛けるインドネシアのスタートアップと組み、廃品回収をアプリで行うサービスを展開した例もあります。アジアではデジタル関連の事業を行う企業が多く、その分野の協業例が複数生まれています。

――アジア各国のスタートアップにはそれぞれどんな特徴がありますか。

DX推進チーム 小沼 千晴 氏 インドのスタートアップはAIやそれを用いたビッグデータ解析などデジタル分野でもソフト面に秀でていると感じます。また東南アジアはビジネスモデルに優れている企業が多いですね。いわゆる「リープフロッグ現象」で、日本のように段階を経るのでなく一足飛びでデジタル化が進行。社会課題とニーズを察知し、いち早くデジタルで対応した企業によってキャッシュレスや配車サービスも日本より進んでいます。

宮﨑 インドでは優れたIT人材や尖った先端技術が生まれやすく、それをグローバル展開する企業も多い。ただこれは新興国では少し例外的です。インドやイスラエル、あるいはシンガポールなどを除く多くの新興国では、先進技術を開発して海外展開を目指すより、今ある技術を地場のニーズにうまく適用し、優れた事業モデルで自国に展開する企業が目立ちます。

――アジアのスタートアップとの協業で、有望な方向性は。

小沼 インドネシアやタイ、マレーシアなどでは財閥系企業が強く、グループで様々な事業を展開しています。オープンイノベーションにも積極的で、そうした財閥企業と日本企業の協業は有望ではないかと感じます。また日本は規制が厳しく、事業化へのハードルが高い分野もあります。実証事業を海外で行い、将来は日本も含めた第三国でビジネスを展開するという成長の形にも可能性を感じているところです。

――J-Bridgeを創立して18カ月(10月時点)ですが、手ごたえは。

宮﨑 沢山の日本企業に参加いただき、会員は900社、1300人に届くところです。とはいえ道はまだ半ば。海外企業との協業で新たな価値を創出できる日本企業はまだまだあると思っています。J-Bridgeはこれまで海外における協業・連携に注力してきましたが、今後は日本に海外の優れた企業・技術を引き込み、日本で研究開発やイノベーションを行う方向にも注力します。日本のキラリと光る企業にぜひ参画いただきたいですね。

(2022年11月10日号掲載)