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Opinion

東京財団政策研究所 主席研究員 柯 隆 (か りゅう)氏

習政権三期目で中国はどう変わるのか

日本は大きな悩みを抱えている。日本経済は中国経済に大きく依存しているなかで、中国とディカップリング(分断)を進めるわけにはいかないが、これ以上対中依存度が高まるリスクをどのように管理すればいいのか。簡単には結論を出せない。

こうしたなかで、中国共産党20回大会が開かれ、引退するはずの習政権は三期目続投が決まった。しかし、新しい執行部の人事をみると、習総書記の権力集中はよりいっそう進んだ。共産党最高執行部は総書記をトップとする7人の常務委員によって構成されている。そのすべては習総書記チルドレンである。これまで習総書記と距離を置く共青団のメンバーや上海閥などは一人も入らず完全に排除されている。

政治の基本は派閥間の均衡が重要だが、習総書記への権力の集中は政権運営の不安定化を意味するものである。なぜならば、イエスマンによって構成されている執行部であるため、間違った政策についてブレーキをかける人がいないからである。

一例をあげれば、習政権が実施しているゼロコロナ政策はその典型といえる。2020年と2021年、新型コロナウイルスの毒性が強かったため、厳しい隔離措置は感染を防ぐ意味で重要な役割を果たした。しかし、2022年に入ってから、ウィルスが変異した。今のオミクロン株は感染力が強いが、毒性が弱くほとんどの感染者は軽症で済むとみられている。したがって、日米欧など世界の主要国では、ゼロコロナ政策を転換して、いわゆるウィズコロナ政策を実施している。

それに対して、習政権は頑なにゼロコロナ政策を堅持している。わずか数人ないし10数人の感染者が確認されただけで町全体がロックダウンされてしまう。最近は、感染者が確認されていないにもかかわらず、町がロックダウンされる事例もみられている。なんのためのゼロコロナ政策なのか、意味が分からない。

公式メディアはもとより、SNSでもゼロコロナ政策に異論を唱えると、書き込みがすぐに削除されてしまう。それだけでなく、異論を唱える人が警察に拘束されることもあるといわれている。

新しい習政権は正式には20233月に開かれる全人代で選出される予定だが、共産党の執行部の人事から新しい習政権の人事の布陣が容易に推察される。新しい首相や副首相は新しい常務委員が担当する慣例になっている。

■中ロVS日米欧の新冷戦か

習総書記の演説から聞こえてくるメッセージとして、中国式現代化強国や豊かさを目指すよりも強さを目指すといった強い意志が込められている。40年前、鄧小平が定めた方針はイデオロギーなどの権力闘争よりも経済成長の促進に軸足を置いていくということだった。しかし、今回の党大会で改革・開放の継続がトーンダウンしてしまった。代わりに、強国復権を全面的に打ち出した。しかし、戦狼外交を展開した王毅外相が国務委員に昇格され、戦狼外交も継続される運びとなった。中国と西側諸国との対立はさらに激化する恐れが出てきた。

大胆に展望すれば、習政権の三期目続投が決まったことで、国内では、統制がさらに強化されると思われる。人々の行動が最新のIT技術によって監視され、政策に少しでも異論を唱えれば、SNSなどのアカウントが無効にされてしまう。習総書記は中国国内で行った演説で国有企業をより大きくより強くしていくと呼び掛けている。今回の活動報告でも社会主義路線を堅持すると強調している。中国社会は大きくUターンしてかつての毛沢東時代に逆戻りしようとしているようにみえなくはない。

そして、外交は西側諸国との関係改善を模索する仕草をみせながら、ロシアとの連携を強化している。それによって中ロVS日米欧の新冷戦の構図が鮮明になってくるかもしれない。日本は中国とどのように付き合ったらいいか。これまで以上に賢いそしてしたたかな外交戦略の構築と実施が求められている。

(2022年11月10日号掲載)