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Opinion

経済産業省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室長 石曽根 智昭 氏

ロボ活用がデジタル化への道
地方の人材流出解消も

超人口減少社会を見据え、国はロボット活用に力を入れる。日本のロボット政策を所管する経済産業省・ロボット政策室も、ロボットフレンドリー(ロボフレ)な環境づくりに尽力している。同室の石曽根智昭室長に話を伺うと、ロボットが地方の人材流出を食い止める未来が見えてきた。

1975年神奈川県出身。中央大学卒業後、経済産業省に入省し、福島県いわき市産業振興部長、経済産業省産業保安グループ製品安全課課長補佐などを経て、23年7月から現職に。かねてから製造産業局への配属を希望しており、「やっとという思いが強い。ロボットを通じて日本のモノづくりをしっかりと応援していく」と話す。

――コロナ禍や人手不足などからロボットに注目が集まっています。日本のロボット活用について教えて下さい。

「前提として、日本の製造業の課題は人手不足と現場のデジタル化が進んでいないことにある。ロボットを導入すると、省力化だけでなく導入工程周辺のデジタル化も同時に進む。ロボットという呼び水を使って生産工程の川上から川下までデジタル化をしていくことが重要になる。今回の補正予算では中堅企業、中小企業への省力化投資の支援をしっかりと行う予定。うまく活用しながら省力化・デジタル化を推進いただきたい」

――ロボットは難しいという印象もあるが。

 「ロボットを製造したり、SIerとして新たな生産工程を構築することは難しい。しかし、ユーザーとして使うのであれば、プログラムを打ち込めれば使用できるとともに、メーカー側の尽力もあり、誰でも簡単に触れられるようになりつつある。ロボット導入が地方の人材流出解消の鍵になる可能性がある」

――省人化ではなく、人材活用につながる。

「もちろん省力・省人化に寄与する現場も多くあるが、地方からの人口流出は構造的な課題。つまり、地方の働き口の一つである製造現場は理系の仕事のため、普通高校や商業高校を出た文系の人が担い手になりにくい。一方で、文系と理系の割合は7:3。地方文系人材が地元で就職しようとすると役所や金融機関などに限られてしまう。つまり、人材が流出せざるを得ない。誰でも使えるようになりつつあるロボットを活用すれば、3K職場の環境改善だけでなく、文系人材にオペレーターとして活躍いただける。インターネットが普及した際、文系人材が多数SEになったのと同じことが地方の製造現場でも起こる可能性は十分にある。そうした意味でもロボットの活用推進は、これまで解決できなかった課題解消に寄与する非常に意味のある取り組みだと感じている」

――中小では日々の仕事で手一杯で、導入の余力のない企業も多いと聞きます。

「確かにロボットを導入したいが、様々な要因によって躓いてしまう企業も多いと聞く。実際、ロボットを導入しようと思ってSIerに当たったものの断られたケースも聞いている。中小企業の現場は人材だけでなく、環境自体がロボット導入に適さないケースも多い。幸いその企業は諦めずに別のSIerに相談して、数年試行錯誤した後導入できたようだ。導入後は、製品の品質が向上・一定になるとともに、データが残るため取引先からの信頼も上がり仕事が増えた。更に、手が空いた人材の活躍で、新たな事業の柱をつくることができたと聞いている。このようにロボット導入は苦労もあるが、メリットは計り知れない。現場に課題をとどめておくと身動きが取れなくなってしまうのも事実。1度断られたり失敗したとしても、本当に導入できないのかをしっかりと拾い上げる仕組みを作る必要がある」

――どのような形が考えられますか。

「現在、いわゆる中央にはロボット政策室をはじめ、(一社)ロボット工業会やロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会、(一社)日本システムインテグレータ協会など、ロボットを推進する機関が充実している。しかし、我々がいかに推進の声を挙げても現場には届かない。その反対もしかりで、現場の声も中央だけでは拾い切れない。もう少し丁寧な仕組みを作る必要がある。すなわち、自治体や商工会議所、金融機関などその地域の産業と近い機関にロボット化推進拠点を作っていくことで、現場の課題を拾うとともに知見を全国で共有できるような仕組みを作っていきたいと考えている」

――地方との連携が重要になってくる。

既に、『未来ロボティクスエンジニア育成協議会(CHERSI〈チェルシー〉)」を通して、理系学生にロボットに関心を持ってもらう取り組みを各所で行ってきた。加えて、ユーザーとメーカーが一緒になって課題に取り組むロボフレも、現場の課題に対しスピード感を持って取り組むことができる枠組み。こうした枠組みを組み合わせたり、拡張・強化することで対応していけるのではないかと考えている。まずはロボットにアクセスしやすくすることで、より広く関心を持っていただける環境を作っていきたいと思う」

(2023年11月25日号掲載)