日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

Opinion

人工知能学会 副会長 栗原. 聡 氏(慶應義塾大学. 理工学部管理工学科 教授)

素人と玄人の差、AIで縮まらない
「プロもAIを使えばいい」

AIが様々な職業を奪うと言われる。おそらくそれは一面の真実ではあるが、すべてに当てはまるわけではなさそうだ。私たちはAIにどう向き合えばよいのか。AIに明るく、自らも利用するという(一社)人工知能学会の栗原聡副会長にリモートで聞いてみた。

くりはら・さとし 1965年神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。NTT研究所、大阪大学、電気通信大学などを経て、2018年から慶應義塾大学教授。著書「AI兵器と未来社会キラーロボットの正体」、編集「人工知能学事典」など多数。冬はスキーを楽しみ、筋トレにも励む。「ジムには通わず自宅のダンベルで15分ほど。筋トレはちゃんと日々やらないと。気分転換にいいですよ」

――生成AIはネガティブなものとして受け止められがちです。

「今夏、ハリウッドの俳優や脚本家たちがストライキを起こしました。AIが脚本を書いたら脚本家は仕事がなくなる。俳優も最初に3Dスキャンをしてしまえば、あとはAI3Dデータで勝手に動かせてしまうという理由からです。EUではAI規制法案が議会を通過し、きちんとしたガイドラインができ始めようとしています。うまく運用されることを期待します」

――栗原さんはAIをポジティブに受け止めていらっしゃいます。

「ストライキが発生したほか、漫画、ドラマ、小説などのクリエーターさんはAIに脅威を感じていると聞きます。私たちはクリエーターさんと一緒になって漫画をつくるというプロジェクトを実際にやり始めました。クリエーターさんにとってAIはいい相棒であり、自分の想像力を焚き付けてくれるものという考え方もできます。あくまでも自分が主導してAIのサポートを受けながらつくるという形です」

――素人がAIを使えば、プロの存在価値は薄れませんか。

「私たちは新しいものを使うことに少し抵抗があるものです。そんな時にネットや新聞でAIに対する懸念を読めばなおさら抵抗感が増します。でもそういう人たちこそがまずはAIを使ってみて、それがどんなものなのかを自分で認識する。そうすればAIってこんなものなんだ、こんなふうに使えるんだとわかります。魅力ある成果を出すこともできるでしょう。素人さんはAIを使ってレベルアップしますが、もちろん玄人さんが使ってもレベルアップするわけで、両者の力の差をこれまでどおり維持することはできると思います」

――まずは使ってみて現状を把握することが大切なのですね。

「若い人は言われなくてもどんどん使っていきますが、プロの人たちは自分の腕一本でがんばってきているので食わず嫌いがあるかもしれません。でもAIは道具であって想像力をもっているわけではありません。人間の創造力に対してプラスに働く道具のはずですから、AIを使えばいいものをつくれる可能性があります」

--これはエンターテインメントの業界に限ったことではありませんよね。

「モノづくりのなかで熟練の人たちはどちらかというとAIの出現に脅威を感じています。そういう人たちこそ、使いこなしてほしいと思います。今までどおり自分の手だけでがんばる、という考えは立派ですが、周りがAIを使って攻めてきたらそれに打ち勝つのは大変です。誰だってAIを使っていいわけで、プロがAIを使ってはいけないという決まりはありません」

――AIによる効果を実際に感じていますか。

「先日、私たちがやっているプロジェクトでAIを使うと10分の1くらいの時間で済む作業があることがわかりました。自分の頭だけで考えようとすると大変ですが、アイデアの種、きっかけをAIは無尽蔵に与えてくれます。ですから最初の立ち上げが早い。クリエーターは自分のレベルか少し上のレベルへ引き上げたうえ、それをより短時間で量産できることになります。これをプロがやると素人はつらくなる。素人がAIを使っていいものをつくれるのは間違いありませんが、必ずしもプロを凌駕するというわけではありません。

私自身もChatGPTを使って要約などをさせてしまうと負けた感があります。負けたというのは自分の能力が落ちたのではなくて、自分でできるはずのことをやらせているというだけのことです」

(2023年11月10日号掲載)