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ジダイノベーター Vol.12/ガスを操るナノ素材をデバイス化 

SyncMOF、CO2回収のゲームチェンジャーへ 

世界中で削減が叫ばれるCO2と、資源として注目される水素・アンモニア。共通点はいずれもガス(気体)であることで、つまりガスを自在に回収・貯蔵できれば脱炭素と資源問題を解決する有効な手立てになる。この夢のような話を「MOF(モフ)」という素材で実現するのがSyncMOF(畠岡潤一CEO)だ。例えばモフを使ってCO2を選択的かつ高効率に回収する同社の装置が、今まさに社会へ実装されつつある。

MOFフィルタを搭載したCO2回収装置。溜まったCO2はバルブ開閉のみで簡単に排出できる

モフは直径1㍈ほどの多孔性材料。約10万種が合成されており、ジャングルジムに似た構造体の中に特定の分子を吸着できる。吸着する分子は自由に設計でき、CO2を回収したり天然ガスを圧縮し運びやすくしたりと用途は無限大だ。「モフ1㌔でナゴヤドーム(容積:170万立方㍍)の空気からCO2だけを1日足らずで回収できる。爆発性の高いアセチレンガスも通常の約200倍まで圧縮して運べる」(堀彰宏CTO)と聞けば、その有用性が伝わるのではないか。

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MOFのイメージ。ジャングルジムのような骨格にナノサイズの孔が無数にあり、それが特定のガスや水分を吸着する

同社はモフを用途に合わせて選定・設計。さらにモフを用いた装置を提供することで企業の課題を解決する。例えばCO2回収装置は内部にモフを成形したフィルタを搭載し、集めたCO2を適宜排出する構造だ。「モフは粉末状だが、そのまま渡されても企業も途方に暮れてしまう。我々は化学と物理の領域をシンクロさせ、実装しやすいデバイスで提供する点で他社と一線を画している」(堀氏)

同社が単独でここまでの知見を有するのは、共同創業者である畠岡氏と堀氏のバックグラウンドが大きいようだ。二人は元々モフの研究者で、堀氏は物理学で博士号を取りながらモフ研究に進んだ異色の経歴の持ち主。モフの生成から装置設計まで自ら行うことが可能で、特定の製品を押し売るのでなくコンサルティングを通じて企業に適した装置を提供できる。創業以来、外部出資なしで黒字を続けるのもそれと無関係ではないだろう。

■スキー×CO2回収

ある冬の日、長野県・白馬村のスキーヤーたちが小型カメラのような装置をヘルメットに付けてゲレンデを滑走していた。遊びに思えるこの行動の目的はCO2回収で、装置を提供したのもSyncMOFだ。「CO2回収装置はほぼすべて企業向け。それを市民が楽しく行えるようにしたのがキーポイント」(畠岡氏)。同社のCO2回収装置は、メインユーザの大手製造業以外にもこのような形で浸透が進んでいる。

ここまでCO2回収装置としてのモフを紹介したが、同社は長期的にエネルギー問題の解決も見据える。「現状は石油など資源の豊富な国とそうでない国があり、残念ながら日本は後者。しかし空気は地球上どこでも存在し、モフで資源を取り出して有効活用すれば日本の立ち位置も変わってくる」(堀氏)という。

例えば社会実装が期待されるメタネーションは、CO2と水素からメタンを生成するもの。モフで集めたCO2をこれに活用すれば、減らそうとしているCO2すら資源になる。資源に乏しい日本の産業を変えるゲームチェンジャーとなるか。

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畠岡潤一CEO(右)・堀彰宏CTO(左)

2023425日号掲載)