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レラテック、洋上の風を捉えるスペシャリスト集団

産学連携で洋上風力の普及を下支え

再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札とされる洋上風力。事業の成否を握るのは「強い風が吹く場所に風車を建てる」というシンプルな原則だ。とはいえ洋上の風を正確に捉えるのは難しく、高度な専門知識とノウハウが要求される。この分野で存在感を増す若い企業が神戸にあると聞き、足を運んだ。

レラテック(2020年設立)は風力発電のための風況コンサルティングを行う神戸大学発のベンチャー企業。創業メンバーは気象学を応用した風況調査の専門家で、神戸大学との産学連携で最新の研究成果をすぐに現場へ落とし込める強みをもつ。創業メンバーの1人、見﨑豪之氏は「洋上風力は日進月歩でルールが制定されるスピード感の早い世界。さらなる研究が必要な要素も多く、それだけ産学連携が活きる場面は多い」と語る。

風況観測の様子。風況マストは精度が良いが建築費が高く法規制で高さに制限があるため、写真のようにライダーと呼ばれる機器をブイの上に設置する場合も

風力発電事業者が知りたいのは「ある地点に風がどれくらい吹き、どれくらい発電量が見込めるか」。レラテックは観測・シミュレーション・解析の3ステップでこれを調査し、事業者は結果から採算性や安全性を判断する。つまり風況調査は洋上風力の肝を握る重要なファクターで、精度を高めるために豊富な知見が求められる。

実際の風況調査は以下の流れだ。まずは風車を建設したいエリアの風の強さを最低1年以上連続で実測。観測手法も鉄塔(風況マスト)を建てる、ドップラーライダーというレーザー光で風を測る機器を使うなど様々で、案件に適したものを選ぶ必要がある。こうして得た局所的なデータをもとに空間的な風の動きをシミュレーションするのだが、その際も計算条件や使うデータを必要に応じカスタマイズしなければ「高い精度が出せない」(見﨑氏)という。シミュレーションの解像度を上げれば計算にスパコンが必要になるなどハード面にも壁がある。こうして導いた風況データではじめて発電量の試算(解析)ができるそうで「これを一気通貫で行えるのは業界でも珍しい」という言葉に大いに頷いてしまう。

■洋上風力の試験サイトも

洋上風力は構造物を直接海底に埋め込む着床式と、風車自体を海に浮かべる浮体式に大別される。現状では着床式が主流だが、遠浅の海が少ない日本には浮体式が向くと言われ今後の技術革新が望まれている。見﨑氏も「創業してまだ3年未満だが、業務の依頼は大変多く風力発電に向けた各社の意欲は高い。開発する海域は徐々に広がっており、そういう意味でも洋上風力は今後大いに発展の余地がある」と展望する。

レラテックは、神戸大学や(一財)日本気象協会とともに洋上風況観測の「プラットフォーム」を青森県六ケ所村に整備しており、今年4月から仮運用中だ。ドップラーライダーなどを事前に検証することで実地での観測精度を担保する狙いがあり、国内初の試験サイトとなる。ちなみに欧州ではこうした試験サイトが存在し、洋上風力発電の開発・発展を支えた背景があるそうだ。

日本の洋上風力は欧州と比べ普及が20年ほど遅れているとも言われる。「風力発電の正しい道しるべになりたい」(見﨑氏)という同社の今後に注目したい。

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見﨑豪之氏。神戸大学の学術研究員を兼務する

2023425日号掲載)