日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

連載

連載

ジダイノベーター Vol.14/かくれフードロス削減で持続可能な社会構築

ASTRA FOOD PLAN、過熱蒸煎機と企業マッチングで市場創造

「食品ロス」や「フードロス」という言葉は、飢餓や環境問題が話題になるたびに注目を集めてきた。しかし、農林水産省の調査によれば、食品ロスはコロナ禍にあった2020年度でも520万トン以上も発生しており、削減に向けた取り組みの成果は十分とは言えない。加えて、この数字には製造過程で発生する食品残渣や規格外野菜、生産余剰農作物などが含まれておらず、実際には、前述の食品ロス発生量のさらに3~4倍もの食品が廃棄されているという現実がある。

加納千裕代表取締役社長と製品ラインナップ内で最も小さい50キロのモデル

食品製造の過程で発生する食品ロスを「かくれフードロス」と名付け、持続可能な社会の実現に向けて取り組むのがASTRA FOOD PLAN(AFP、埼玉県富士見市、加納千裕代表取締役社長)。細かく砕いた食材に300℃~500℃の高温スチーム(過熱水蒸気)を熱風と共に当てることで5~10秒ほどで乾燥、殺菌、パウダー化する過熱蒸煎機を手がける。加納社長の父が規格外農作物の加工に過熱水蒸気を使用したのがきっかけだが、当時は過熱水蒸気をボイラーで沸かしていたためエネルギー効率が悪く、食材もピューレ状に加工していたことから保存が効かず活用が進まなかった。

新たに開発した過熱蒸煎機は、独自開発の過熱水蒸気発生ユニットを内蔵することで、効率的に過熱水蒸気を生み出す。また、過熱水蒸気を装置内に満たすことで食材の殺菌を同時に行えるだけでなく、装置内が低酸素状態になるため食材の酸化を抑え、風味や色合い、栄養価を損なうことなくパウダー化できる。乾燥した状態で取り出せるため、常温で1年以上保存期間を確保できた(水分含有量は変更可能)。

加納社長が「速い、安い、美味い」と製品の特長にあげるように、製造速度が速く、ランニングコストが安いだけでなく、従来、食品乾燥に使われてきたフリーズドライや熱風乾燥に比べて設備投資コストが抑えられ、栄養価も損なうことなく美味しく加工できるのも大きな特長。

「最終的な判断は消費者。最終製品が良いもの、美味しいものにならないと理念は良くてもSDGSの実現にはつながらない。過熱蒸煎機は酸化を抑えられるだけでなく、素材本来の香りや味を引き出せる。これまで産業廃棄物として処理していたものを付加価値の高い有価物へと転換できる」

■三方良しのマーケットづくりも

装置を導入する企業にとっても、消費者にとってもメリットの多い過熱蒸煎機だが、前例や実績のない装置の利用や設備投資を促すのは難しい。そこで力を入れるのが、過熱蒸煎機を導入した企業とパウダーを活用したい企業のマッチングだ。

「装置導入を検討している企業はパウダーの売り先を確保したいと考え、需要先の企業も大量に流通していて安定的に購入できなければパウダーの採用が難しいため、なかなか導入が進まなかった」

そこで、過熱蒸煎機を納入した企業や生産者からパウダーをAFPが買い取り、活用したい企業へとマッチング、販売する仕組みを構築。新たなマーケットの創造を目指す。既に大手牛丼チェーン・𠮷野家の工場で発生している玉ねぎの端材を原料としたタマネギパウダーがパンを製造・販売するポンパドウルのオニオンブレッドに採用されるなど、活用が広がり始めている。

今後はマッチングの取り組みを強化するだけでなく、過熱蒸煎機の食分野以外への活用や地域と連携した取り組みなどにも力を入れていく。

(2023年5月25日号掲載)