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レアメタル眠る「都市鉱山」開発へ

内閣府が行った2021年の「消費動向調査」によると、スマホの平均使用年数は4.3年。その買い替え理由としては「故障」が36.5%で最も多く、次いで「上位品目への移行」の33.8%となっている。

使用済スマホは未回収のものも多い

一方、2020年に(一社)情報通信ネットワーク産業協会が行った調査によると、リサイクルのための端末回収率はわずか17%。端末の中古需要の増加や、ショップ店頭での下取り割引キャンペーンがリサイクルとしての回収を進みづらくさせていると言われているが、原因はユーザー心理とみる向きもある。

それは、ユーザーの「データ漏洩に対する不安」。先の調査では12%の人が「個人情報が気になる」として、使わなくなったスマホを所有していると回答している。今やスマホは通信手段としての携帯電話ではなく財布、写真のアルバム、スケジュール帳など個人情報がギッシリ詰めこまれている。

これらのメモリはスマホの初期化だけでは完全なデータ消去は不可能。全てのメモリを物理破壊しなければメモリ内部の隠し領域のデータは消去されず、データ漏洩の危険が生じる。また単なるスマホの物理破壊ではリチウムイオン電池からの発火リスクも伴うゆえ、家庭での処理が難しい側面もある。

欧米ではこうした使用済端末メモリの物理破壊スキームが確立され、再利用が進みつつあるが、日本ではまだまだ浸透していないのが現状だ。

スマホに使われているコバルトやパラジウムといったレアメタルは2050年までに世界中の埋蔵量を使い切ると目されている。またICチップに使われている金、銀はすでに埋蔵量ベースを上回っているとも言われており、家庭に眠る使用済みスマホは「都市鉱山」として新たな注目を集めている。


■低コストのリサイクル実現へ

この「都市鉱山」の開発に挑んでいるのが、2021年に設立された国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (原子力機構)発のスタートアップ、エマルションフローテクノロジーズ(EFT)だ。同社は溶媒抽出による元素分離技術をベースとしたレアメタルリサイクル事業を展開している。

溶媒抽出は、互いに混じり合わない液相間における物質の分配を利用することで、目的成分のみを選択的に抽出する技術。従来、一般的に使われてきた「ミキサーセトラー」法は、液相どうしを「混ぜる」「置く」「分離する」の3工程と、大型の設備が必要だった。

「当社が開発したエマルションフローは、水と油の『送液』のみの1工程で溶媒抽出を可能にした革新的な手法です。従来法に比べ精製能力が高く、分離困難だったレアアースの精製も可能にします。また精製装置も約10分の1とコンパクトで、生産性を向上させランニングコストを低減します」(EFT)

同社は現在、三菱マテリアルや大平洋金属、イワキなどと協業を進めており、低環境負荷で回収した高純度のレアメタルをハイテク産業に直接再利用する「水平リサイクル」の早期実現を目指す。

「使用済みの携帯電話やスマートフォンなどの約65%は自宅に放置されているのが現状です。それらすべてをリサイクルすると、金メダル15万枚分(1枚6㌘換算)の金や、自動車26万台分のアルミ、1万㍍分の電線を再生金属として再利用でき、植林370万本(東京ドーム80個)分のCO2を削減可能です」(同)

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(2023年5月25日号掲載)