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ジダイノベーター Vol.15/プリント基板製造のニュースタンダードへ

エレファンテック、「足し算工法」で排出CO2とコスト大幅削減

プリント基板の一種であるフィルム状のフレキシブル基板は、自在に屈曲でき、PCやモニター等の電子機器の小型化に寄与する部品だ。その市場規模は2033年まで年間成長率10%超の拡大が見込まれている。

しかし「銅を積んで削る」従来の製法はムダになる資源が多く、大量の廃水による環境汚染という課題があった。その課題に対し、エレファンテックは金属インクジェット印刷による「ピュアアディティブ法」を開発。必要な部分だけ印刷する「足し算工法」でプロセスを省き、コストとCO2排出量を大幅削減する。

「ピュアアディティブ法」で製造したフレキシブル基板「P-Flex」。モニターやセンサモジュールで量産採用され、流通している。

20年に量産が成功、21年には三井化学の名古屋工場内に量産製造拠点「AMC名古屋」を立ち上げ、P-Flexの量産製品製造を開始した。既存製法の製品と同等の耐久性をもち、すでにモニターやセンサモジュールとして流通している。

「『ピュアアディティブ法』はプリント基板の根本的な製法を180度変える技術。さらなる展開としては印刷機械を販売し、他の基板メーカーも同じ製法で作れるようにする。世界のスタンダードを置き換え、エレクトロニクス業界全体をサステナブルにしていく」と清水社長は語る。

特許を取得した同製法は、配線部分を銅インクで印刷し、回路を形成、無電解銅めっきで銅を成長させ膜厚を得る。銅を貼り、いらない部分をエッチングで溶かして残った部分だけ使う従来のサブトラクティブ法(引き算工法)に比べ、工程が短く済み、使う材料も減る。「銅の使用量を70%CO2排出量は75%削減できる。銅を溶かす工程がなくなり、水使用量は95%まで大幅に減る。圧倒的な省資源化が実現する上に、製造コストは既存製法より同等以下に抑制する」。

■技術リードしながらスケールアップへ

14年に東京大学から起業した同社だが、当時はまだ脱炭素やSDGSなどは重要視されておらず、低環境負荷の需要は大きくなかった。清水社長は「将来に目を向ければ資源が足りなくなるのは明らか。独占的な立ち位置になるためには世界観といったパラダイムの変遷期を先行して抑えておかなければいけない。性能やコストだけでなく、低環境負荷が購買決定の要因となり、大きな流れになるというイメージがあった」と話す。この数年間で加速した脱炭素への動きにより、引き合いは増えている。

「同じような取り組みをするベンチャーもあるが、量産に成功しているのは世界で我々だけ」と自信を見せつつも、課題は「生産をさらにスケールアップするなかで出てくる問題に対処できるか。現状は年間数万枚規模の供給量だが、年間100万ピースの大型ロット生産に向けて準備している。それが成功すればさらなる量産も視野に入れており、スケールアップのチャレンジを今まさにやっているところ」と話す。

調達資金の90億円は人材や研究開発に充てる。「より市場の大きな両面フレキシブル基板やリジット基板を開発し、マーケットを拡げていく。後発企業が追いかけてくるなかで勝つためには常に最先端でいるのが大切」と意気込みを語った。

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清水信哉代表取締役社長兼CTO

(2023年6月25日号掲載)