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けんかっ早いけど人が好き Vol.50

スリランカのおもてなし

コロナも5類へと移行し、本当に久しぶりに友人とランチに行った。向かったのは、スリランカカレーの店である。人気店ゆえに予約の電話をすると一時間半制とのこと。数年ぶりに会う女同士の話が一時間半で終わるはずもなく、食後はカフェに移動することにして予約を入れた。

スリランカカレーは、さまざまな食材をスパイスで味付けてあり美味しい。

当日は案の定、話に花が咲きまくりあっという間に時間が経過。そろそろ店を出なければと思っているとスリランカ人の店主が笑顔で紅茶のポットを持ってやってきた。

「紅茶のおかわりはいかがですか?」

はい、今から? もう退店しなければいけない時間ではないのか。店を見わたすとやはり満席である。店の外はわからないが、待っている人はいないのだろうか。しかし、店主のこの笑顔。断る方が申し訳ないほどだ。お言葉に甘えて紅茶を注いでもらい、ふたたびきゃっきゃと話をしていると、また店主が現れた。

「さきほどとは違う紅茶、飲んでみませんか?」

スリランカは紅茶の本場だ。ずうずうしいとは思いつつも、こうなるととことんずうずうしくなるしかない。二人でこくこくとうなずくと、店主はまたにっこり微笑みながら紅茶を注いでくれた。

飲食店は、回転率が命だ。ゆえに時間制を設けているところは多い。ビジネス街の居酒屋など、客がすっかすかなくせに時間になると退店を求めるところがほとんどなのに、この店のホスピタリティは異次元である。

そういえばとスリランカで暮らした経験がある友人の話を思い出した。スリランカの人は家族や友人を大切にする。効率ではなく、いかに自分もまわりの人も心地よく笑顔でいられるかを考えるのだと。24時間働けますか世代の私としては、そんなことでスリランカのGDPは大丈夫なのかと不安になるが、スリランカの価値観を学んだ彼女はいつも自分の感覚を大事にして心地よい時間を作り、楽しそうに働いている。

結局、友人と私は3時間近く居座り、再会というイベントにふさわしいとても心地のいい時間を過ごさせてもらった。この御礼は、また来ることで(今度はとっとと帰ろう)果たしたい。そして私も、がつがつ働くのを改めたいと、1ミリくらい思った次第である。

(2033年6月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)