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ジダイノベーター Vol.17/『落ちこぼれ』CO2吸収材で起業

ベホマル、世界中のプラ1%に添加で『杉10万本分』

2022年11月創業のスタートアップ企業「ベホマル」。非常勤1人を除けば西原麻友子社長だけの小さな企業が第8回滋賀テックプラングランプリで最優秀賞と企業賞2つをトリプル受賞した。大気中から二酸化炭素(CO2)を吸脱着するプラスチック製品「DACプラ(ダックプラ)」と、同製品に使われるバイオマスCO2吸収材の研究開発を行っている。同バイオマスCO2吸収材は西原社長が数ある論文からたまたま見つけたもので、名だたる企業や研究者が「使い物にならない」と匙を投げた"落ちこぼれ素材"だった。

DACプラはデンプン由来のバイオマスCO2吸収材と樹脂(ポリエチレン)を混ぜて作られ、大気中からCO2を吸収し、約80℃の熱で放出する性質を持つ。西原社長は村田製作所で電子部品用電極材料の研究開発と解析に従事していた。

研究職時代、新素材のリサーチをする中で偶然にある論文からバイオマスCO2吸収材を見つけ出した。「面白い素材だったが、性能はイマイチ。競合材料に比べCO2吸収量が低く、耐久性や安定性にも問題があり、多くの企業や研究者が一度は手を出すものの、イマイチすぎて見捨てられている落ちこぼれ素材だった」(以下同社長)とする。安定した素材の大量生産を前提とする大企業では、活用が難しいと一念発起して会社を立ち上げた。

バイオマスCO2吸収材を樹脂(ポリエチレン)に混ぜることで安定性が確保でき、バイオマス材添加による脱プラ(10wt%添加で、 10%のプラスチック削減)も同時に叶った。「ポリエチレンに混ぜるという誰でも思いつきそうな方法論だが特許を調べても先行事例がなかった。関係企業の研究の主眼が別の方向に向いており、エアポケットのように誰も取り組んでいなかった」と笑う。

樹脂・プラスチックメーカーは、同素材を転嫁するだけで、設備投資なくDACプラを製造できる。フィラー効果で若干、素材が硬くなるが、添加量が少ないのでバイオプラスチックのように物性が大きく変わらない利点がある。

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CO2吸脱着を手に 西原麻友子社長

■食器で回収し野菜育てる「植物カフェ」

また競合材料に比べ吸収量は低いが、植物由来で毒性がなく、食器なども含め既存のプラスチック製品に混ぜられる。熱を掛ければ排出されるので回収も可能だ。世界中のプラスチック製品4億トンの1%に、10%の同社CO2吸収材を添加したと仮定すると、バイオマス材添加効果によるプラ削減で、200万トンの排出削減と、1回吸収で400トンのCO2を大気中から削減可能だ。1年間、毎日加熱による回収を行えたなら、146万トンも吸収(杉の木10万本相当)できる。

問題は価格で、現在は通常のプラスチックの2倍以上になる。「使い捨て品に普及していけばいいが、まずは高付加価値品や大企業の環境PRも兼ねた取り組み、環境意識の高い人に広げていく」とする。普及計画の一つとして植物カフェ構想がある。CO2を吸収するプラスチックの食器を用いて料理を提供。約80℃の熱で放出する性質を利用して食器乾燥機でCO2を回収し、野菜などを育てる。

2023930日号掲載)