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けんかっ早いけど人が好き Vol.57

洗濯機事件

この夏の異常な暑さに、エアコンを発明した人、天才!と何度叫んだことだろう。今さらながらだがノーベル賞をあげてもいいと思う。そしてこの夏は洗濯機も大活躍だ。作った人、えらい!  と、感謝しまくりである。そんな夏の終わりのある日、洗濯槽の中にへんなものが見つかった。

ガムテープはいつも万能。これでいけると思ったのに。

我が家はドラム式洗濯機を愛用しており、ドアを開けた突き当りに黒く大きなザルをひらべったくしたような網がはめてある。その網がはずれているのである。すぐにはめて……と思ったら、あら、はまらない。メーカーのフリーコールに電話をして修理を頼むと、その流れで近所の修理店から電話がかかってきた。私が状況を説明すると、だみ声のおばちゃんは一気に言った。

「ドラムが曲がっちゃってんのよ、ドラム交換になるわよ、修理代は4万円。え? 13年使ってるの? じゃ、ドラム替えても近いうちにマイコン壊れるわよ、どうする?

ドラム式洗濯機の寿命は7年程度だとネットのあちこちに書いてある。13年も使えば買い替え提案にも納得するが、20万円もした洗濯機のくせに、たかが百円ショップで買えそうな黒い網がはまらないだけで買い替えとは、とうふの角に頭をぶつけて死ぬようなものではないか。一瞬、おばちゃんを疑ったものの、おばちゃんにしてみれば修理したほうが儲けになるわけで、買い替えを勧める理由はない。

そうですか、買い替えますと言って電話を切ったものの、そこでおとなしく言うことをきく私ではない。こんな網、ガムテープで止めてやる!

網を定位置で押さえると、勢いよくガムテをはがして千切り、ばってんに貼りつけた。さあ、どうだ! 

期待と期待(不安は微塵もない)で見つめていると、うまくいくではないか! ふふふ、これでいいじゃん。

ところがである。ガムテ生活わずか一週間で、平和な日々は終焉を迎えた。洗濯機は脱水とすすぎを延々と繰り返し始めたのである。

「近いうちに、マイコン壊れるわよ」

おばちゃんのだみ声が、リフレインする。やはり、現場の経験ほど信頼できるものはない。かくして私は4万円を無駄にすることなく洗濯機の買い替えに成功した。おばちゃん、ありがとう。

2023930日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)