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ジダイノベーター Vol.18/原子力機構で生まれたコア技術

エマルションフローテクノロジーズ、レアメタルの高効率リサイクルへ

スマホからEVまで、いまや人々の生活に欠かせない必需品となったリチウムイオン電池(LIB)。調査会社の富士経済は、LIB世界市場は2025年に2020年比1.8倍以上となる12兆3315億円に成長すると見込んでいる。

エマルションフローによる溶媒抽出

このためLIBに使用されるコバルトやニッケル、リチウムといったレアメタルは各国で「奪い合い」の状況となりつつある。特に推定埋蔵量710万㌧と言われるコバルトは、2025年には年間25万㌧の需要があり、今後さらに採掘ペースが上がることで、石油資源よりはるかに早く枯渇すると予測されている。

こうした中、劣化したLIBからレアメタルを抽出し、高純度で生成する装置開発に挑んでいるのが、原子力機構発のベンチャー、エマルションフローテクノロジーズ(EFT)だ。社名にある「エマルションフロー」は原子力機構で開発された新たな溶媒抽出技術で、同社のコア技術にあたる。

通常の溶媒抽出は、水と油(溶媒)を混合して水に溶存する成分の油への抽出を促し、その後、排水のために水と油を分離する。これまでレアメタル抽出は、撹拌によって水と油を混合した後、水と油が重力分離するのを待って排水するミキサーセトラー法が一般的に用いられてきた。

「従来の溶媒抽出技術では、液相どうしを『混ぜる』、『置く』、『分離する』の3工程が必要でしたが、エマルションフローは『送液』のみで、3つの工程をすべて同時に行える革新的技術です。ポンプ送液のみで水と油を乳濁状態(エマルション)にまで混合し、抽出容器内の流れの変化を利用し、重力分離を待たずに水と油を迅速に分離するので、従来のミキサーセトラー法に比べ処理コストは1/5以下、10倍以上の処理速度を実現します」(EFT・鈴木裕士社長)

特筆すべきは処理装置の大幅なダウンサイジングだ。複数工程を要した従来方法では、大がかりな設備が必要だった。しかし、エマルションフローは手数が少なくなった分、シンプルな処理装置で済むという。

「処理設備は従来比で1/10以下のスペースで済みます。また、密閉構造のために無臭で快適な作業環境を実現するとともに、IoT管理による自動化も容易なため、人件費削減にもつながります」

■EV向けバッテリーの資源循環へ

脱炭素化を目指すためのLIB需要の伸長。一方でレアメタルの採掘・精錬には環境破壊やCO2排出問題が付きまとう。また一部の資源については、カントリーリスクの高い国からの輸入に依存しており、供給面の不安は拭い切れない。

それゆえ、同社が目指す使用済みLIBの高効率リサイクルは、様々な問題を解決できる可能性を秘めている。

「当社とKDDIの調査によると、使用済みの携帯電話やスマートフォンなどの64.6%は自宅に放置されているのが現状です。また2010年代に登場したEVLIBは多くが劣化し続々と廃車の道を辿っています。これらをリサイクルして得られたレアメタルを再利用すれば、バージン材(新品材料)の使用量を削減し、資源の採掘や精製、運搬などで発生するCO2を抑制することも可能です」

今年8月には自動車大手ホンダ系商社のホンダトレーディングが、グローバルでバッテリーリサイクル事業を展開するリーテックと連携。LIBのリサイクルにおける協業を目指している。

3社の連携ではLIBの回収、レアメタルの抽出、バッテリー原料として再利用することを検討していきます。同時に、開発・商業化が進んでいる全固体電池などのさまざまな電池への対応も視野に入れ、EVを中心としたサステナブルリサイクルの実現を目指していきます」

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EFT・鈴木裕士社長

20231010日号掲載)