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(一社)モクティ俱楽部、エシカル消費で再造林をサスティナブルに

30ヘクタール未満の福島の森に光を当てる

約97万3千㌶の森林面積をもつ福島県。全国4位の広さを有するが、伐期を迎えても手付かずの状況であったり、伐採した後の林地に植林を実施しない「再造林放棄」などで森林荒廃の危機にある。
(一社)モクティ俱楽部は、エシカル消費を通じた再造林と育林により、福島の森の森林循環を推進する。森林の所有者から最終消費者までのステークホルダーが購買活動代金の1%をモクティ俱楽部に賦課金として納入し、その資金を基に皆伐地に再造林と育林を毎年行っていく。

2021922日に設立し、家庭用木製品の製造・販売を手掛ける光大(福島県本宮市)の根本昌明社長が代表理事を務める。

現在、ホームセンターなどの小売業の4社を含む16社が取り組みに参加しており、趣旨に賛同する企業12社からの年会費とで運営している。会員数は毎年数社ずつ増えているが「育英基金などからわずかに援助はあるものの、活動は手弁当でやっています」と根本代表理事は実直に話す。

「再造林に対する国の助成金はありますが、対象は30㌶以上。大手の商社や建材会社が手掛ける100㌶以上ならば国の補助が色々出ますが、30㌶未満だと何の補助も出ません。福島県の林業家の所有面積は平均067㌶で、1㌶に満たないことが非常に多い。たとえ供託して30㌶以上でまとめても、伐った後の木材が再造林費用を賄えるほどの価格で売買されていないため、ほぼ伐りっぱなしの現状です」と助成金と実情のミスマッチを指摘する。

「そういう光の当たらないところに光を当てていく」――。根本代表理事はモクティ俱楽部の指針を表現した。

植えるのは2千~3千本の苗木で、「雪の多い地域にはカラマツ、そうでない地域には杉やヒノキなど土地に適した植林を行う」。これまで南会津町といわき市で2回開催し、一般市民から企業団体までボランティア約150人が集まった。

1人あたり、1020本を植えていただく感じです。我々から提供できるのは昼ご飯におにぎりと豚汁くらいですけど、山の中で食べると格別だとよく言っていただいています」と朗らかに話す。

3回目は来年62日に田村市で約2千本の植林を予定する。

■福島の森を「世界基準の森」へ

主業は木材加工業のため、植樹に携わるまで林業には詳しくなかった、と言う根本代表理事にモクティ俱楽部立ち上げの経緯を尋ねた。「東日本の震災後、売り上げが落ちたため海外に販路を求め、木製のまな板を持って世界を回りました。そこで知ったのはアメリカや欧州の環境基準の厳しさ。アメリカの基準は日本より進んでおり、欧州はアメリカ以上に非常に厳しいです。日本の環境政策の遅れを肌身で感じました。循環型社会に向けて諸外国はスキームの中にサスティナブルな循環ができる枠組みを作っています。日本は大きくやれるところには予算がついていますが、小さい面積には何もない現状です」

「池に石を投げると波紋ができますよね。モクティ俱楽部の立ち上げは問いかけを投げるような、意識をこっちに向いてもらえないかと行動を起こし実現しました」

理事会の構成についても「木材関係者は3名のみ。異業種からわざわざ理事を選任して追加しました。役職で理事についても、全員会費を払っており平等な立場です。業界内の慣習に、外から見て気づいた点を指摘してくれと言っています」と多角的な視点を取り入れ運営する。

「再造林率を高めつつ、『福島の森は世界基準の森』ということを証明したい」と語る根本代表理事は、国際制度であるFSC認証のFM認証を現在申請中。さらに関わる木材流通・加工業者がCoC認証を取得できるようなスキームの提供を目指し、世界へ福島の森の循環を拡げる。

FSC認証取得には資金も時間も要するが、世界基準の森として次のステージにいくためには不可欠な要素だと言う。「居心地のいいことを壊さなければ現状は変えられません。100%でなくとも動いていれば30年後には結果が出ます」

1日で木は育たないが焦らない。モクティ俱楽部は変化を取り入れながら、福島県の次世代の森の苗木を植え、見守っていく。

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根本昌明代表理事

20231010日号掲載)