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ジダイノベーター Vol.7/ヒューマノイド技術を物流ロボットへ

東京ロボティクス、移動式パレタイズロボを2カ月で開発

旺盛なEC需要と人手不足を受け、物流業界に参入するロボティクス企業が増えている。9月の「国際物流総合展2022」でもAMRを筆頭に様々なロボットが披露され、さながら「ロボット展」のようだった。ただAMRはハード的な参入障壁が比較的低く、ともすれば仕様が似通りがちでもある。その中で、片腕式の移動マニピュレータが段ボールを運ぶ東京ロボティクス(15年設立・社員17人)の展示は良い意味で異色に映った。

移動式パレタイズロボット「モバイルグリッパ」。グリッパ式のため吸着の難しいワークも把持可能(力制御を応用。写真はJAさがみ むつあいトマト選果場でのPOCで使用した試作機)

東京ロボティクスは「人間共存ロボットの実現」を掲げる早稲田大学発のスタートアップだ。ヒューマノイド研究の草分けである同校のスピリットを継ぎ、24軸(手先含め36軸)の人型ロボット「Torobo(トロボ)」をはじめとする高次元のロボットを研究機関などに提供している。

Toroboの特長は腕と腰の全関節に搭載したトルクセンサによる力制御だ。外力に対し関節単位でフィードバック制御を行うことで、人に近い柔らかな動作を実現する。例えば人がToroboの手を取り、一緒に踊るようなインタラクションもできる。剛性も高く片腕で瞬間最大20㌔のワークを保持し、画像認識も自律走行もする。そして特筆すべきは、こうした高次元なロボットがすべて垂直統合で作られている点だろう。

「各分野の優秀な研究者が社内におり、機械や電気の設計はもとより組込み・上位ソフトまですべて自社開発します。この圧倒的な開発力が我々の強みで、蓄えた要素技術を切り出して販売したり、フラッグシップ機からの引き算でコストと性能を最適化したロボットを短期開発することも可能です」(経営企画部 吉澤大知氏)。技術の結晶である高難度の人型ロボットを自社開発するからこそ、それをベースに他社と一線を画すソリューション開発が可能になるわけだ。

■ケース搬送式GTPを開発中

同社は21年、自走式パレタイズロボット「モバイルグリッパ」をわずか2カ月で開発し物流業界に参入した。国際物流総合展では同機と、Toroboをもとにした片腕式移動マニピュレータ「Tolon(トロン)」を用いた段ボール搬送デモを披露。注目を集めたが、吉澤氏は「Tolonはあくまでコンセプト展示で、モバイルグリッパも現在行っているのは機械の単品販売のみ。今は物流の諸課題を解決するケース搬送式のGTP(定点ピッキング)の開発を進めています」と次なる展開を明かす。

開発中のGTPは棚ごと運ぶのではなく、必要な箱をアームでピンポイントに取り出して作業者へ搬送するロボットだ。同社のロボットはモータなど要素部品レベルから自社設計しており、機体を小型化できるため既存の通路幅を変えずに導入できる。「棚搬送式のAGVはピッキング頻度の多い商品には向かず、専用棚が必要で導入コストも高い。我々は既存のレイアウト・設備を活かすことで導入コストを抑え、かつ効率化・省人化効果 の高いGTPを狙います」という。

一方で物流以外へのソリューション展開も並行して進める。「我々は高いロボット開発力を武器に多くの業界が悩む人手不足を解消します」と吉澤氏。「ロボット部品の共通化を進めており、色々な業界へのロボット導入が進めば全体のコストを下げ、これまでコスト的にロボット導入が難しかった業界の人手不足解消につなげられると考えています」と展望する。

(2022年10月10日号掲載)