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ジダイノベーター Vol.9/人との繋がりが最大の武器

グーテンベルク、振動制御で速く綺麗に造形する3Dプリンター

「他社製FFF(熱溶解積層)方式3Dプリンターと比べて、一番苦手な素材であっても2倍以上の造形速度」

真に速い3Dプリンターを目指し、グーテンベルクが開発したのが樹脂素材向けFFF方式3Dプリンター「G-ZERO」だ。とにかく活用しやすいエントリー機として設計し、保守費用込みで98万円(税別)。昨年5月の販売開始以降、作った端から売れていく状況が続いている。

出荷前のG-ZERO。この日は15台ほどの機体が事務所に並んでいた。

「最速機種」と売り出すため、プリントヘッドの最大駆動速度を500/s、最大加速度を2万㍉/s2と、いずれも同クラスの他社製品に比べて10倍以上の速さが出るように設計した。可動部の重量を軽くしたのが特徴で、他社のプリントヘッドが1㌔ほどであるのに対し、0.25㌔程度に抑えた。同社・取締役でメカニカルエンジニアの山口勇二さんは「独自の技術を盛り込んでいるというよりは、スピードを出すために細かいところを少しずつ削っていった」と話す。

通常、加速度を上げると本体の揺れも大きくなるため、造形速度と造形品質はトレードオフの関係になる。G-ZEROは動作時にヘッドを2段階で動かしたり、加速度を動的に変更するといった振動抑制技術で振動を打ち消すとともに、そもそも振動が起きないように筐体の剛性を高めた。同社・取締役でウェブサービス担当の小船井真悟さんは「綺麗に造形できるからこそ速く動かせる」と、その造形品質に自信を覗かせた。

3Dプリンターに慣れていないユーザーがほとんどの状況で、造形時間が長いのは使用上のリスクになっていた」と小船井さんは話し、造形速度を上げれば、加速度的にユーザーの試行回数や知見の蓄積が向上するとの考えから、はじめの一歩に生産性向上を掲げた。実際、他社のプリンター30台でこなしていた作業を、G-ZERO5台に置き換える企業も出てきているという。

■東京・大田の加工ネットワークを活用

3Dプリンターの開発に着手したのが20216月、1年足らずで製品販売に至った。それには、無駄を省き、開発項目を絞る工夫だけでなく、「適切な人が集まっていた」ことが大きいという。

「技術的なことを聞かれることが多いのですが、当社の最大の強みは適切な人的ネットワークを持っていること。社内外に3Dプリンターの設計・製造を良く知る人材がいることに加え、質の高いメーカーが多く集まる大田区の加工ネットワークを活用して製品開発できていることが、何もない状態から1年で販売までこぎつけた最大の理由」(小船井さん)

同社の取締役であり、立ち上げ初期から助力してきた極東精機製作所の鈴木亮介社長は「ハードウエアベンチャーの弱点は、どこでどう作るのかが見えないこと。アイデアを具現化する作り手を見える化することで、ベンチャーキャピタルも安心して投資できる」と、同社の人的ネットワークのメリットを話す。

もともと同社は3Dプリンターを活用したバイク部品の試作プラットフォームの事業化を目指していた。3Dプリンター自体を製造するようになった現在も、1メーカーとしての視点だけでなく、周囲を巻き込んだ実課題の解消を目指す。「海外製品を売りっぱなしの状況では、AMに対する国内の知見が深まらない。世界的に見てもちゃんとしたものを国内で作るためにも、大きな輪を作って、当社と協力企業、ユーザーの三位一体で実課題にトライしていきたい」と小船井さんは先を見据える。

(2023年1月25日号掲載)