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けんかっ早いけど人が好き Vol.41

日本語はむずかしい

リサイクルといえば、私にはある苦い思い出がある。

30歳をだいぶ過ぎたころ、私はやっと一人暮らしを始めた。そして、人生で初めて日本の厳しいゴミ捨てルールに直面したのである。ルールは自治体によって異なる。東京都もまた、独自のルールを設定していた。電池はどうする、缶はどうする、長い棒はどうする? 私は混乱し、メディアでよく紹介されているゴミ屋敷の住人が、ルールが複雑で捨てられなくなったという気持ちが痛いほどわかった。一人暮らし直後は、実家までゴミを持ち帰っていたほどである=甘えすぎ。

最近はペットボトル飲料も買わなくなりました。

当時住んでいたアパートは駅から20分以上はなれた場所にあった。近所には小さな商店街があり、ひときわ目立つ大きな青果店の脇にはペットボトル回収ボックスが設置されている。ふむ。ペットボトルはここに入れればリサイクルしてもらえるのだな。大量のペットボトルを抱えていくと、ボックスには大きな文字で「キャップをはずしてください」と書いてある。キャップをはずす。その言葉を読んで私はこう理解した。

「キャップをはめたままだと、集塵車がペットボトルをつぶしながら積み込むときに爆発する危険がある」

よって私はペットボトルからキャップをはずし、ペットボトルをつぶしたうえで、それぞれ回収ボックスに放り入れた。ところが、それを見ていた青果店の主が、とんでもなく怖い顔をして私をにらんでいるではないか。いや、ペットボトルは洗ってあるしキャップもはずしたし、なんでそんな怖い顔で? 彼の怒りの理由を知ったのは、それからずいぶんあとのことだ。回収するのはペットボトルのみ。キャップは入れてはいけなかったのである。そりゃ、投げ入れた私をにらむのも当然でしょうよ。しかし、悪気があったわけじゃない。というか、わかるように書けよ!と逆恨みもしたくなる。

言葉はむずかしい。会話は、共通の経験があって成り立つものだからだ。「タヌキはおいしい」「今日はキツネを食べようかな」。このやりとりを聞いた片言のわかる外国人はぎょっとするらしい。日本人にとっては、ごく当たり前の蕎麦屋での会話だけれど、共通の認識や経験のない人には、やっぱりわからないのである。

(2023年1月25日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員