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15秒で後付けできる非接触電力センサ

SIRC、設備単位の消費電力を「正しく」可視化 

体重管理が自身の体重を知ることから始まるように、省エネでは正確な消費電力の把握が欠かせない。工場全体の消費電力はもとより、設備単位で「どの工程にメスを入れるべきか」を知るのが肝要だ。この観点で生まれたSIRCの「IoT電力センサユニット」がいま、脱炭素に取り組む大手を中心に注目を集めている。15秒で後付けでき消費電力を高精度に測れる同製品。普及すれば、生産現場の省エネに弾みがつく可能性がある。

左端に設置されているのがIoT電力センサユニット。小型軽量かつ電池駆動のため配線レスだ。

SIRC2015年設立、大阪市立大学発の技術ベンチャーだ。コア技術は同大学の辻本浩章名誉教授の研究成果である、磁性薄膜とそれを用いたセンシング。電力・電流・角度を計測して出力したり周波数を抽出できる磁性薄膜をわずか5㍉角の微小チップに仕立て、角度センサや電力センサとして世に届ける。とりわけ注目は2212月発売のIoT電力センサユニットだ。機器単位の消費電力を測る小型センサで、発売約1年で導入企業が170社を数えるヒット商品となっている。

同センサの何が優れるのか。広報室の亀山篤志室長がまず挙げたのは「非接触かつ取付が容易な点」だ。接触式の電力計は設置工事が要るが同センサは非接触式で工事不要。しかも配電盤や分電盤などの電源配線の上から、クリップ形のセンサ内蔵ヘッドを2カ所クランプするだけで設置が完了する。「『15秒で設置できる』が売り文句ですが、誇張ではなく実力値です」と亀山氏は話す。「とにかく取付に手間がいらず、汎用電池で3年稼働できる。三相電源のRSTの区別も必要なく電気的知識も不要です」

消費電力を「正しく」把握できるメリットもある。交流の場合の消費電力は電流と電圧をかけ合わせた値に電力がどれだけ有効に働いたかを示す「力率」を乗算して求めるが、亀山氏によれば簡易的な電力計測器は力率が固定値だという。つまり算出した値と実際の消費電力に差が生じてしまう。

対してIoT電力センサユニットは力率も実測。ゆえに正確な消費電力を導ける。「脱炭素という課題へ責任感を持って取り組まなければならない企業からすれば、正味の消費電力の把握は大いに意味があります」(亀山氏)。これらの利点が脱炭素へのコミットに悩む企業に刺さり、好調な売れ行きにつながっている。

■消費電力のグラフ化も

先にも触れたとおりSIRCのコア技術はセンシング。だが同社が提供する価値はセンシングに留まらない。顧客の要望次第で、IoT電力センサユニットで取得した消費電力のデータを専用のゲートウェイでクラウドに上げてグラフとして可視化するシステムの提案も可能だ。「省エネ活動の結果がすぐにわからないと継続性が損なわれてしまう」(亀山氏)のが理由で、すぐに構築できるためBIシステムを持たない中小企業からの支持も集める。同センサの導入自体は自動車関連メーカーなど大手中心だが、昨今は中小企業も取引先から脱炭素への参画を要請される。中小企業の相談も増えているそうだ。

消費電力の可視化は脱炭素の第一歩だが、生産ラインや設備ごとの消費電力の把握は現実として難しく、その一歩を踏み出せない企業はまだ多い。SIRCの技術が突破口になるかもしれない。

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広報室の亀山篤志室長と小笠原瞳氏。亀山氏が手にするのがIoT電力センサユニットで、小笠原氏が持つのが角度センサ。どちらも軽量・小型だ

(2024年3月10日号掲載)