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ファザーマシン2/Chapter13

ドリルの「手研ぎ」できますか?

みなさん、こんにちは。工業系YouTubeチャンネル、なんとか重工のとんこつです。今回は、"テーパが死んでいるドリルと旋盤の謎"をお送りします!

ゴリッ! ゴリッ! ゴリッ! けたたましい轟音が断続的に工場内に響き渡っている......。突然ですが、普通旋盤のドリルの固定方法をご存知でしょうか?

ドリルの手研ぎ(なんとか重工チャンネルより)

小径ドリルの場合はドリルチャックにドリルを取り付けて終わりですが、そのドリルチャックそのものや、大きい径のドリルはどのように固定されているのでしょうか。

答えはモールステーパという機構です。モールステーパは、寸法が規格で定められた円錐形状です(凸側)。

凹側はテールストック(心押し台)という名前の構造部品で、旋盤の場合は主軸に向かい合うように設置されています。このテールストックにドリルチャックや、ドリル、回転センターなどを取り付けることにより、穴あけ加工や、材料の保持などを行うことができるのです。

そして、このモールステーパという仕組みは、テーパ面同士の摩擦のみで固定しており、ねじなどは一切使用していません。(フライス盤はテーパ&引きねじ)また、円錐形状なので入れるだけで工具中心が出て、良いことづくしの機構です。

が、1点致命的な欠点があります!

それはテーパ面が傷付くと工具が固定できなくなるということ。ザラザラの面に吸盤が引っ付かないのと同じように、傷付いたテーパ面で工具は固定できません。特にドリルの場合は切削抵抗に耐え切れずドリルが空転します。

ドリルが空転すると、凹側であるテールストックのテーパ内面にも傷が付きます。(空転しないようテーパ先にタングという回り止めの機構もありますが、次第に削れてしまいます)凹側であるテーパ内面にも傷が付くと新品のドリルであっても空転するようになってしまいます。

■テーパ面がボロボロに

前置きがとっても長くなりましたが、私が担当していた旋盤は比較的キレイな外観をしていました。しかし、テールストックのテーパ内面にはそこそこの傷がありました。

何故かドリルを管理している大ベテランのYさん。φ50くらいの大径ドリルを使用していて、少し近寄っただけでものすごい振動と音。きっとドリルが大きいからだと思っていましたが、信じられない光景を目の当たりにしました。

2枚刃のドリルのうち片方からしか切粉が出ていません。ゴリッ! ゴリッ! ゴリッ! 明らかに異常ですが、Yさんは涼しい顔をしている。とりあえず自分が使いたいドリルを手に取るとテーパ面がズタボロ。他のドリルも見てみるとほとんどのドリルのテーパ面がダメになっていました。

刃の部分がボロボロだったり、研いであると思ったら何故か1枚刃仕様…?

そうです。Yさんは敢えてドリルを1枚刃にして加工しているのです。理由は明白でした。ドリルが研げないのです。

2枚刃が研げない→1枚刃のみで加工→不均一な切削抵抗→大きな負荷&振動→テーパ部に大ダメージという最悪のループ。私は使いたいドリルのテーパ面をできる限り綺麗にして、工場の隅にあるグラインダーで刃先を研ぐことにしました。

前の会社で習得した技能が活きて嬉しかったのと同時に、手研ぎできない人が意外と多いことに驚きました。まあ再研に出したり、研磨機があれば無理に手研ぎする必要はないんですが(笑)。

余談ですが、1枚刃ドリルのせいで穴が拡大し、穴あけで不良になったことが何度かあったそうです。次回、必要な工具と上司の機嫌。お楽しみに~

20231210日号掲載)

工業系YouTuber【なんとか重工】とんこつ
工業系YouTubeチャンネル【なんとか重工】を、相方のケロと2人で運営。旋盤やフライス、マシニングに溶接機、3Dプリンターなどを活用して自分たちが作りたいモノを作るチャンネル。登録者数は12万人(2023年10月26日現在)