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扉の先72/「柔軟な自動化」を大企業ベンチャーが実現

BSV、人手不足解消担う「ソフトロボティクス」

都心から1時間弱、最寄り駅を降り立つとかすかに漂うゴムの匂い――。世界トップのタイヤメーカー・ブリヂストン。その東京工場内の研究開発拠点「ブリヂストンイノベーションパーク」において、同社初となる社内ベンチャー「ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズ(以下BSV)」が産声をあげた。

いちごパックを掴むソフトロボットハンド

事業立ち上げを推進したBSVの音山哲一社長が語る。

「ブリヂストンの創業者は『人々の暮らしに寄り添う』ことを大切にしていました。そこで、人のために何かできることはないかと模索したところ、ロボティクス分野で活用できる要素技術が当社には揃っていました」

同社では、長年にわたるゴム素材の研究開発の知見を活かし、ロボティクス分野で活用可能なラバーアクチュエータの開発を行ってきた。このラバーアクチュエータは、ゴムチューブとそれを囲む高強度繊維で構成されており、柔軟性と剛性を両立させた人工筋肉として、人の手に近い感覚で「掴む作業」を実現する。

事業構想が立ち上がるとすぐに音山CEOらプロジェクトメンバーは、取引のある顧客100社以上を回りニーズを把握するとともに、共に開発を行うパートナー探しに奔走した。

そんな中で出会ったのが、アセントロボティクスだ。同社はプレイステーション生みの親として知られる久夛良木健CEO率いるロボットベンチャー。ビジョンカメラとAIを利用した独自のピッキング技術に強みを持ち、複雑なプログラミングなしで容易に導入できるピッキングシステム「アセントピック」を世に送り出している。

音山CEOは「久夛良木さんにはじめて自社開発のハンドを見せた時、強烈なダメ出しを喰らいました。プロトタイプモデルはまだ人工筋肉が剥き出しのもので、お世辞にも見た目の良いものではありませんでした」と述懐する。

久夛良木CEOは「機能的には抜群に優れているのに、デザインがもったいない。そこを何とかしてほしいと言ったところ、僅かな期間でプロダクトデザイナーによるモダンなハンドが出来上がってきました。そのスピード感に、従来の大企業とは違う勢いや熱量を感じました」という。

■「柔らかく掴む」技術で

社名にもある「ソフトロボティクス」は、人に寄り添う柔らかさに主眼においたロボット技術の開発であり、これまで硬いイメージが先行していたロボット・機械開発とは一線を画す。

「これまでのロボットは、スピードや生産性を重視した繰り返し作業を担う存在でした。しかし、急速に変化しつつある現代社会においては従来通りのロボット活用では、本当に困っている人の助けに成り難い。今後は人と協働できるソフトロボティクスをいかに普及・拡大していけるかがカギになると考えています」(音山CEO

同社の開発したロボットハンドは、人肌に近いシリコン製の4本指ハンド。ビジョンカメラと連動し、シャンプーボトルのような複雑形状のものから、いちごパックのように絶妙な把持力が要求されるものでも、人の手と同レベルのピッキングを可能にしている。

直近で見据える市場は、人手不足が顕著な物流現場への実装だ。自動倉庫の発展や荷物の積み下ろし、運搬の自動化が進む一方で、最終的なアウトプットとなるピッキング作業はまだまだ人手に頼らざるを得ない作業となっている。

こうした現場の課題解決に、あらゆるものを「ソフトに、しっかり掴める」同社のハンドの活用が期待されている。

「当社において新規事業をやるには、単に『やりたい』だけでは成立しません。社会貢献や、当社がやる意味についても考える必要があります。これまで当社は『人の移動』を支えてきましたが、これからのテーマは、『人の動き』を支えることです。今後はさまざまなパートナーと共に、ソフトロボティクスの可能性を広げていきたい」(音山CEO

2023310日号掲載)