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扉の先80/アクアドローンで漁業のIT化促進

日本海工、自動航行 自動計測で水質調査を自動化

農業や畜産業では機械化、IT化がかなり進んでいるが漁業、さらに養殖業はやや後塵を拝している。豪雨被害での塩分低下で北海道浜中町の火散布沼(ひちりっぷぬま)の養殖場施設でウニの大量斃死が起こり2014年の夏、地元から「何とかならないか」と相談を受けた大阪公立大学大学院工学研究科二瓶泰範准教授(工学博士)。しかし人力による水質調査は、労力と時間を要することから水質環境を詳細に把握するための十分なデータを取得することが難しい。そこでドローンの活用への研究が始まった。

4機のハル(船体)を広げ定点保持するロボセン

海上地盤改良工事なども手掛ける建設会社「日本海工」の事業本部ロボット事業推進グループ増田憲和氏は「アクアドローン『ロボセン』は4機のハル(船体)で構成される自動航行船。事前プログラミングにより決められた観測点への自動航行も可能で、到着すると進行方向に向いていたハルが4方向に展開し、風や波浪で流されないように定点保持する。また、アプリケーション画面のMAPに表示される現在位置とデッキ上に設置したWebカメラが映し出す風景を確認しながら、マニュアル(手動)操作することも可能」という。ラジコン操作ではなく、スマートフォンから制御できるので都心のオフィスにいながら操作することもできる。「水質環境調査やインフラ点検などはスマートフォンの電波が届く近海がほとんど」(同)とし、他にも水中カメラを装備することで、牡蠣・海苔・とり貝などの生育状況を自動で定期調査したり、海上工事における環境影響調査にも利用できる。

ロボセンは観測点で定点保持を行いながら、水質計測器を海底付近まで降下させ、計測が完了すると次の観測点まで自動航行を行う。水質データリアルタイムモニタリングシステムは、無線通信仕様にカスタマイズした水質計測器(JFEアドバンテック社製・無線式RINKO-Profiler)とロボセン制御システム(Raspberry Pi)間のBluetooth通信によりセンサーの電源ON/OFF制御を行い、各観測計測点での計測終了時には水質データの回収を行う。さらに、回収した水質データをLTE通信でクラウドにアップロードすることによりアプリケーション上でリアルタイムに水質環境をモニタリングできる。

■産学連携で開発 スマートフォンで操作

ロボセン開発の経緯は、二瓶准教授が養殖漁業でのアクアドローン活用の検討を始めていたころ、ちょうど日本海工も海の汚染などの調査で新規事業化を目指していた。そこで社会実装するためタッグを組むことになる。また二瓶准教授の教え子で、船体の開発に必要なFRP(繊維強化プラスチック)の設計会社に勤めていた阪本啓志氏がベンチャー企業「フラクタリー」を立ち上げ開発に加わる。

阪本代表は「開発は手探りで、波の力で溶接部分が折れてしまい、溶接の少ない構造にしたり、アマモが大量発生してプロペラに絡みつくので、急遽漁師さんの知恵も借り、養殖用ネットでプロペラカバーをつくったり創意工夫の毎日でした」と話す。自動着岸機能と、スマートフォンで操作するためのシステム構築も苦労した。また低価格化も目指し制御システムは市販のマイコンを活用している。

さらなる展開について「河川水の流域調査による養殖漁業への影響やダム湖での利用、閉鎖性の高い海域での水質調査を行ない、持続的な養殖漁業などの発展のために利用されることを期待する」(二瓶准教授)とした。

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日本海工の増田憲和氏(左)とフラクタリー代表の阪本啓志氏、ロボセンを前に

2024210日号掲載)