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ジダイノベーター Vol.13/コア技術+αを指向し、市場を広げる

イノフィス、アシストスーツのリーダー企業に

重労働軽減を目的に生まれたアシストスーツ(装着型動作補助装置)の市場が伸びている。認知が進むなか、利用分野が介護から農業、製造、物流、建設現場などへと広がっている。富士経済は調査(21年版)で、2020年時点の世界市場51億円が25年に同144億円へ、5年で3倍近い成長が見込めるとした。

マッスルスーツ「Every」

こうした成長カーブを自ら描き、国内において頭一つ抜けたマーケットリーダーに躍り出たのが、東京理科大発のベンチャー企業、イノフィス(東京都八王子市、乙川直隆社長)だ。会社設立は10年前の1312月。その翌年、開発第一号のアシストスーツを市場に問うた。

製品はこれまで、外骨格型(がいこっかくがた)と呼ぶ、外側にフレームを設けたアシストスーツが主流。圧縮空気などでアシスト力を発生させる仕組みだ。ただ当初のアシストスーツと現在のそれはずいぶん違う。軽量化や長時間対応、着やすさ、しゃがむ・立つといった動作のしやすさなどを巡って改良を重ね、顧客層を広げた。つれて売上げはやがて本格的に伸び、累計出荷台数1万台まで6年ほどかかったが、その翌年(214月)には同2万台を突破した。金額ベースで同社が国内市場の7割近いシェアとする第三者観測もある。

いまは顧客比率で「およそ介護3割、農業3割、製造物流3割、その他1割」(イノフィス広報担当)だそう。乙川社長が言葉を足した。「重労働軽減とは別に、作業効率向上を目的に導入されるケースが年々増えていて、これが事業成長の最大要因。いまは物流現場に特に期待しています」。

ここ数年のPR活動の徹底強化も奏功した。ただ誤算もあった。ホームセンターなどを経由した個人向けの販売は期待ほど伸びていない。「やはりデモで実体験していくことが必要と痛感します。コロナ禍が収束しつつあるいま、再度デモを強化したい」(乙川社長)。

■市場の先を見る新しい連携や開発事業

注目すべきは現代のスタートアップ企業らしい、しなやかで柔軟な姿勢と発想が、同社において随所に見られることだ。そのことは、乙川社長が象徴している。

乙川社長は産業技術総合研究所を経て、イノフィスの大株主である菊池製作所に入社。現在、菊池の役員も務める。その菊池製作所は、精密機器などの大手のティア1として受託加工を主力事業としつつ、研究開発やベンチャー支援に注力してきた。乙川社長は「(菊池製作所のメンバーとして)私自身、100社を超えるスタートアップとの連携を進めてきた」と言う。

こうした経験をベースに、他社(者)との柔軟な連携に乗り出し、同社を特徴づけてきた「外骨格型アシストスーツ」にこだわらない製品づくりも進める。

今年3月、同社は医療・スポーツ用サポーターなどで実績の日本シグマックス(東京都新宿区)と製造委託や共同開発で合意し、サポーター型アシストスーツを販売開始した。続いて6月には、同社が持つ外骨格型の知見と、日本シグマックス社のサポーター技術をミックスした共同開発品を発売予定。他方で昨年には、同業3社とともにアシストスーツ協会(任意団体)を立ち上げ、合同イベントなどを行っている。

乙川社長は言う。「アシストスーツは、伸びているといってもせいぜい国内数十億の市場。しかしその先に関連する巨大マーケットがあることを、私たちは見ています。自前技術に執着せず、さまざまな可能性を広げたい」。

2023515日号掲載)