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けんかっ早いけど人が好き Vol.20

自己満足の幸せ

服に対する興味がない。学生時代はバイク雑誌ばかり読んでいたし、会社勤めを始めたときは制服があるし、なんたってバイク通勤OKの会社だったため、お洒落な服を買う必要もなかったのである。

今治タオルのブランドマーク。まわしものではありません

こんな有様なので、この仕事を始めたときは困った。自前の服で人様に会うものの、センスがまるでないのである。霞ヶ関の会議にもユニ〇ロのTシャツと運動靴で行ってしまうため、さすがに見かねた友人が服選びをかって出てくれた。今、なんとか人前に出られるのも彼女のおかげである。

仕事ですらそんな状況なので、家での惨状は筆舌に尽くしがたい。膝の抜けたジャージ。首の伸びきったTシャツ。今着ているフリースは、98年にモンブランに登ったときのものである。となるとみなさんの想像に難くないのは寝具、とくに掛布団たちの荒廃ぶりである。ええ、そのとおり。羽毛布団は二十歳から。タオルケットは高校生のときから使っている。高校生って、いつ? 十年単位で指を折って数えるほど遠い昔である。

ところがついに、そのタオルケットが臨終のときを迎えた。なにか毛玉のようなものが散ると思い改めて見ると、襟元がすっかりすり減り、あちこちが崩壊寸前になっていたのである。このまま洗濯機で回したらとんでもないことになるのは目に見えている。私は長年愛用しつくしたタオルケットに別れを告げることにした。さようなら、ありがとう、タオルケット。

さあ、代わりをどうするか。ネットで探せば安くて丈夫そうなものがいくらでもある。しかし考えた。睡眠大事。これからは、ちょっといいもので気持ちよく眠るのはどうだろう? そして選んだのは、日本が誇るタオルブランド、今治のものである。ネットの激安よりも四~五倍高い。しかし、四~五倍の年月使えば元はとれる。いや、まちがいなくそのくらいは使うであろう。恐るるに足らずだ。

そして我が家にやってきた真っ白いタオルケットは、それはそれは軽くて暖かくとろけるような手触りだった。この心地よさを知らないまま今まで生きてきたことを後悔するほどである。

誰にも見られないところのちょっとした贅沢で得られる幸せ。自分だけが知る快楽。これはちょっと、はまりそうだ。

(2022年3月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員