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けんかっ早いけど人が好き Vol.30

ドアガード

ドアを開けても全開にならないようにできるドアガードは、ホテルに泊まったときは必ずかける。以前、海外のホテルに連泊したとき、ハウスクリーニングの人にドアをいきなり開けられたことがあるからだ。ドアガード、大事! しかし、たまにこのドアガードが思わぬ惨事を引き起こすことがある。

先日宿泊したホテルのドアガード。ええ、かけますとも。

だいぶ前になるけれど、仕事でスペインのホテルに宿泊した。外の景色でも見るかと掃き出し窓からバルコニーに出たときだ。季節は夏。部屋はエアコンが効いていたため、冷たい空気を逃がすまいと私は窓をピシャっと閉めた。

「あ。」

閉めたとたん、私はやらかしたことに気づいた。そう、この掃き出し窓は外からは開けられないオートロックタイプだったのである。どどどどうしよう? 落ち着け、私。部屋の中をのぞくと、フロントに連絡できる唯一の手段である電話機がデスクの上にちんまりとあるのが見えた。

バルコニーから下をのぞくとそこは中庭で、下を歩く人が小さく見える。叫ぶしかない。恥ずかしいと言っている場合ではないのだ。

「ヘールプ!

私は声を限りに叫んだ。何度か繰り返し叫ぶと、従業員らしき人が上を見上げ、私の存在に気づいてくれた。

「窓が開かない!

すると従業員は叫び返した。

「フロントに連絡しろ!

ばっかもん。それができれば苦労はないわ。

「窓が開かない!

数回繰り返すと状況を理解したらしく、従業員はうなずいてどこかへ消えていった。待つこと数分。私の部屋のドアが開いた。しかし、そのとき私の目に映ったのは、ドアガードでちょっとしか開かないドアの向こうにあるフロントマンの残念そうな顔であった。そうだった、ドアガード、かけたんだった。さらに待つこと十数分。今度は、ひげもじゃの男性が現れた。そして、すさまじい音を立てながらドアガードを壊し始めたではないか。

かくして私は救出された。ドアガードが取り付けてあった部分は無残な状態になっていた。大変、申し訳ございません。とはいえ、ドアガードはこれからもかけるよ。でも、バルコニーに出るときは、絶対に締め切らないと肝に銘じた次第である。

(2022年8月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員