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けんかっ早いけど人が好き Vol.38

エクレア愛

無人島になにを持っていくかと問われたら、チョコレートと答えるくらい甘いものが好きだ。そんな私が愛してやまないのはエクレアである。チョコレートではないのかと突っ込まれそうだが、そう、エクレアなのである。

コンビニのエクレアも美味しい。

エクレアを愛するあまり敢えて食べないという行動に出ているほどだ。毎日食べてしまったら、エクレアの美味しさに慣れてしまうではないか。万が一にも飽きたなんてことになったら、とんでもないことである。ゆえにエクレアは日常的には食べない。ここぞというときに食べて、やっぱりエクレアが一番美味しいとしみじみうなずくのが至福の時なのである。

では、シュークリームはどうかというと、シュークリームとエクレアはまったく別ものである。違いはその形状だ。シュークリームは丸いがゆえに、一口めを食べたときに皮の分量が多い。途中で、クリームと皮のバランスを考えながら食べ進めなければいけなくなるが、それにひきかえエクレアは細長いために一口目から最後まで同じように楽しめるのである。すばらしい。いったいだれが、この形に決めたのか。エクレアは、クリームと皮と皮の上にのっかっているチョコやコーヒー味のコーティングの割合がずっとくずれることはない。完璧である。

先日、黙食スイーツの会におじゃました。話をせず、ただ目の前の食に向きあうというストイックかつ、甘い物好きにはたまらない企画である。口は話をするという役割から解放され、ただひたすら味わうために使える。スイーツの美味しさを、口のなかに入れた瞬間から飲み込むときまで存分に味わえるなんて最高の企画といえる。そして、なんとそのとき、メインのお菓子はエクレアだったのである!

まわりの参加者は、添えられたナイフで切り分け一口ごとにフォークにさして上品に食べている。しかし私は手でエクレアをつかむと、大口を開けて口のなかに入れた。噛んだときの皮の食感、クリームがうわっと口のなかに広がる幸福感。なんという幸せ。そして実感する。ああ、やっぱりエクレアが一番美味しい!

本当は毎日でも食べたい。しかし、そこをぐっとこらえる。なんたって、人でもモノでも長く付き合うためには、ほどよい距離感を保つことが大切なのである。

20221210日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員