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けんかっ早いけど人が好き Vol.45

災害への備え

天災は忘れたころにやってくる。95年の阪神淡路大震災。11年の東日本大震災。あの大変な状況を見たとき、災害の規模が大きくなれば公的機関だけではどうにもならないことを実感した。公助のほかに共助、そしてなにより自助が大切になってくる。

最初の三日間は自力で生き抜かなければならない。その備えをしなければ! だというのに、いつのまにか平和ボケして震災のことなど忘れてしまう。そして空腹に耐えかね、今こそ危機的事態だと言い訳をして備蓄しているアルファ米を食べつくす始末である。これではいけない。数年前から私は、311日と防災の日の91日は半年ごとの防災セット点検の日と決めた。

先日も防災リュックを引っ張り出して点検をした。中には現金、身分証明書のコピー、軍手、ヘッドライト、携帯電話の充電器、芯を抜いてつぶしたトイレットペーパーなどなど。これらはずっと同じものでかまわないが、缶詰、ペットボトルの水、乾電池などは期限を確認してローリングストックよろしく新しいものに入れ替えていく。そのとき、ふと新たに必要なものがあることに気が付いた。コロナで欠かせない存在となったマスク。そして老眼鏡である。悲しいかな、ついに私も細かい字が見えにくくなってきた。こうして防災用品リストのアップデートにスイッチが入ると、次々に思い当たるものが出てくる。眠るときに使うようになった耳栓。常に持ち歩いているリップクリーム。ドライアイ用の目薬。腰痛防止のためのマッサージボール。避難所で毛布をわたされたときは襟元だけはカバーをしたい。だれの口元が触れたかわからない毛布は、うーん、ちょっとである。生きることでいっぱいいっぱいのときに、そんな余裕があるのかと思うのだが。そして私は甘い物がなければ生きていけない。なにがなくともチョコレートだ。長期保存が可能な缶に入ったビスケットも入れておこう。

こうして防災リュックはパンパンになった。自分のライフスタイルが反映されたといえば聞こえがいいが、つまりは歳を重ねてわがままになっただけだ。これからもっとわがままになるだろう。落ちる体力、重くなる防災リュック。いずれ背負えなくなる日がくることは間違いない。

2023325日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員