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けんかっ早いけど人が好き Vol.51

藤の豆

先月のこのコラムで、藤の花がマメ科の植物であることを書いた。とはいえ、私はこれまで、藤の豆を見たことがない。花が散ったあとは藤の花のことなどすっかり忘れ、藤棚は単なる「棚」としてしか認識しなくなるからだ。しかし先日、同じ藤棚の下を通る機会があった。そして、ふと上を見上げた。すがすがしい晴れの日、葉のあいだからちらちらと光が漏れていてきれいだったのだ。そう、葉のあいだから......葉?

どうやっても美味しそうにしか見えない藤の豆。

思わず立ち止まってしまった。そこには、なんともりっぱなスナップエンドウがぶらさがっていたのである。スナップエンドウは私の大好物だ。遠い昔は、スナック(タイプ)エンドウなどとも呼ばれていたらしいが、83年に農林水産省が正式名称としてスナップエンドウと名称統一をしたらしい。へー。

目の前にぶらさがる、美しく瑞々しいスナップエンドウもどき。そして思う。これは、食べられるのか? さっそくスマホで検索である。いくつかの情報をまとめると藤の豆やサヤには毒があり、頭痛や吐き気などを引き起こすものの、加熱すれば美味しく食べられるという。改めて藤棚を見上げると、順調に成長したサヤが次から次へと認識される。食欲とは、人のセンサー精度をこんなにも高めるものなのか。恐るべし。そういえば子どものころ、土手に生えている(どこの犬がオシッコをかけたかわからないような)ヨモギを摘んできてヨモギ餅を作ったことがある。少し前に山の師匠について修行していたときは、知り合いの裏山に人知れず育ったムカゴやゼンマイを摘んだものだ。この豆たちも、このままにしておいたら朽ち果てていくだけだろう。食べられるものをみすみす枯れさせてもいいのか?

この藤棚の管理者はだれなのか。だれに言えば合法的に豆を摘んで持ち帰られるのか。うむむと悩みながらその手順を妄想してみる。手に入れたあとは、サヤをはずし豆を炒って毒を消し……そのあとなぜか私の妄想は、腹痛を起こして七転八倒する図になった。フグの毒までとはいかないが、やはり素人、特に料理と縁遠い人間はこういう危険なものには手を出さないほうがいい。なんたってこういうときの私の勘は、めちゃくちゃ当たるのである。

2023625日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)