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けんかっ早いけど人が好き Vol.56

グーグル修行

私の愛車にはカーナビがなく、スマホをカーナビ代わりに使っている。ふと気づくと、輸入車の中には試乗車にカーナビを装着せず、スマホ画面を車内のディスプレイに表示させるパターンが増えてきた。実はこの動き、若い人のスマホ活用率の高さを反映してか、軽自動車でも始まっている。たしかに、クルマに乗る前に目的地を設定しておけるスマホの方が便利かもしれない。

突然の坂。ここを進めと?ヒールのある靴じゃなくてよかった。

私が使っている地図アプリは、グーグルマップだ。このアプリのいいところは、徒歩や自転車でのルートと所要時間も出してくれるほか、バスのルートと時刻表まで教えてくれることだ。おかげで駅から離れた仕事現場まで、効率的に向かえるようになった。

先日、初めて訪れる会場での講演を依頼された。グーグルマップで検索すると、徒歩16分とある。この程度の距離ならウォーキング代わりにちょうどいい。スマホをちらちら見つつ10分ほど歩いたところで、大通りから左へと入る。すると、突然、道がなくなった。いや、目の前にほっそい登山道のような下り坂が現れたのである。えっ、ここ?

道はうっそうとした木々に覆われ、未舗装の路面は昨夜の雨でところどころぬかるんでいる。そのとき思い出した。グーグル先生は、高低差や道幅を考慮しないのだった。カーナビとして使うときもそうだ。対向車が来たらすれ違えないような細い道も、林業のクルマしか通らないような脇から伸びる木の枝で車体をこすりそうになる道も、躊躇なく「こっちに行け」と示してくるのである。こういっちゃなんだが、日本のカーナビメーカーは道選びに思いやりがある。住宅地や幅の狭い道は選ばないなど、安全に走れるルートを優先的に選ぶプログラムが入っているのだ。しかし、グーグル先生は違う。とにかく行ける道はどんどん行かせる。これを私の仲間うちではグーグル修行と呼んでいる。

目の前に現れた登山道。どうする、引き返すか。いや、そんな時間はもうない。そうこうするうちに蚊まで襲ってきた。最悪だ。それでもグーグル先生は「最短ルートだ、文句あるか」とばかりに表示し続けている。わかった、この修行、受けて立とう! お気に入りの白い靴は泥だらけ。しかし、心の中はグーグル先生に勝った満足感に包まれている。

2023910日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)