日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

連載

連載

けんかっ早いけど人が好き Vol.59

鉄の塊愛

恋はするものじゃなくて、落ちるものだ。

江國香織さんが書いた小説「東京タワー」が映画化されたときのキャッチコピーである。この言葉を見たとき、そのとおり! と、膝をたたきまくった。チョコレートがどうしてそんなに好きなのかと問われても、好きなものは好きだ。理由なんてないのである。もっとも私の場合、チョコレートの原料に詳しくなって高級志向に向かうのではなく、ただ冷蔵庫の上一段が、市販の板チョコとお買い得パックのキットカットで埋め尽くされているくらいなのだが。

思わず立ち止まり見惚れてしまった。作った人、天才!

そんな私がもうひとつ、理由もわからずただただ惹かれるものがある。それは、鉄(含む金属全部)。鉄の塊感、重厚感を見ると血沸き肉躍るスイッチが入るのだ。似たようなものに岩があるが、岩には全然ときめかない。どうやら自然にできたものより人が作り上げた塊に反応するようだ。

私がモータージャーナリストになったのもこの鉄の塊好きによるところが大きい。ナナハンを乗り回したのも、250ccバイクでは鉄の塊愛が満たされなかったからだ。電車を作る作業を取材したときは電車そのものを差し置いて、電車を吊り上げて移動させる機械に萌えに萌えた。米作りの本を書いたときは、トラクターにハートを撃ち抜かれてトラクターが活躍する代掻き(土作り部分)を書き込みすぎ、編集者に叱られたこともある。消防車、救助車、はしご車にドクターヘリ。命を守るためにかけつけるこうした鉄の塊は、好きの最上位に位置づけられる。ヘリコプターの免許をとりに行こうかと本気で悩んだが、高度な技術と経験が必要なドクターヘリまで年齢的に到達できないことがわかり、昨年、こっそりとったショベルカーの資格で今のところ気持ちを落ち着けている。

先日、取材で疲弊しすぎてよろけるように線路のオーバーブリッジをわたろうとしたら、いきなり目の前にまばゆいばかりの工作物が現れた。世の中的には手すり工事用の単なる足場らしいが、私には京都の伏見稲荷大社に並ぶ鳥居よりも神々しい金属の組み合わせである。一気に元気百倍だ。好きとはなんて尊い感情なのだろう。これからも積極的に好きを取り入れた人生にしてご機嫌に過ごしたいものである。

20231025日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)