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けんかっ早いけど人が好き Vol.9

わたしの米

新米の季節がやってきた。こう書くと食通のように聞こえるが、私は自分でも情けないくらい雑な舌の持ち主である。なのに新米が気になるのはなぜか。それは、私が作った米だからである。

美しい山々に囲まれた田んぼで育つ米。取材時1カット

10年ほど前に小学生向けに米作りのノンフィクションを書いた。取材を受け入れてくれたのは米どころ魚沼の中でも、山の中腹にある棚田で雪解け一番水を使って米を育てる当時40代の若き(米農家の40代は超若手)うおぬま小岩農園の社長である。

種籾を発芽させる3月から10月の稲刈りまで何度も通って密着させてもらう。取材の謝礼金を払えない代わりは労働力提供なのだが、これが我ながらひどかった。体力がないため戦力にならないばかりか育った苗の入ったパレットをひっくり返すわ、草刈り機で畦の雑草を刈りながら育った稲まで刈り落とす始末。それでも若き米農家は「やっちゃいましたか。まあ、そんなこともありますよ」と笑っている。あまりの穏やかさに尋ねてみた。どうしてそんなに許せるのかと。

「田んぼに水をはろうとしても、畦にモグラが穴をあければ水はなくなる。風で枯れ葉が水路に落ちて水が入る穴を防げばやはり水はたまらない。自然には逆らえませんから」

自然に逆らわず事実を受け入れる。あまりにしなやかな考え方に、余裕なく生きる自分を恥じた。以来、私は彼を先生と呼び、取材が終わった今でも毎年春になると播種に参加させてもらっている。私がやるのは播種機にパレットを載せるだけ(唯一私が問題なくこなせる仕事)とはいえ、実れば私の米であることに違いはない(先生公認)。

今年ももうすぐ、私の米が収穫される。今年の出来はどうだろう。長雨や夏の低温は大丈夫だっただろうか。それにしても、ワインはその年の気候によって当たりはずれがあっても消費者は味の違いを受け入れてくれるのに、米は毎年同じ味が期待されているのはなんだか解せない。

お米は生き物。そして人間は自然には逆らえない。でも、米を作る人の愛情は毎年変わらず注がれている。今年の私の米もきっとおいしいはずだ。だって、パレットを播種機に載せるときに美味しくなれと祈ったもの。新米の出来が楽しみである。

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員