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DMG森精機 R&D執行役員 AM部部長 廣野 陽子 氏

金属AM+切削が生み出す究極の工程集約

世界最大級の工作機械メーカーとして先端技術を取り入れ、高付加価値の機械を提供してきたDMG森精機。

同社が掲げる工程集約や、DX、GXに寄与する先端造形技術として金属AMは着実に活用範囲を拡げている。AM分野における現在約70億円の売上は、2025年に200億円まで拡大する見通しだ。切削加工とAMを1台で行える金属積層造形機で、世界的なマーケットを獲得するR&D執行役員 AM部部長の廣野陽子氏に詳しく話を聞いた。

――海外でアディティブマニュファクチャリング(AM)の活用が多様に広がっています。引き合いの多い地域や分野は。

「需要が活発な地域はアメリカですね。ただ、昨年のJIMTOFで『LASERTEC 3000 DED hybrid 』を日本で初発表しました。現在まで既に5台が売れており好調な出だしです。伊賀事業所で作っている金属積層造形機ということもあり、見積もりを出した60件のうち半分は日本から。また少し前まではAMというと航空や宇宙、医療分野というイメージを持たれることが多かったですが、今では一般産業からの見積もりが最も多いです」

―― 一般産業というと。

「特にロール産業です。EV化が進むと電池が増えますが、フィルムを積み重ねる電池の工程で使われるロールの製造にAM技術が適用されています。今年に入って日本で売れた2台のうち、1台はそのような用途で導入されました。EV関連で日本企業のAM活用への意欲的な姿勢が感じられます」

――LASERTEC 3000 DED hybrid の特長は。

「レーザで溶融し積層するDED方式と、切削加工ができる複合加工機をベースとした最新鋭の機械です。切削から積層造形まで1台で前加工や積層、あるいは積層の後加工も行えます。ワンチャッキングで同時5軸加工とAMができるとあって『究極の工程集約』と言っても言い過ぎではないと考えています」

――社内製品でもAM活用が進んでいると聞きます。

「我々の工作機械の主軸に使うドローバーという部品があります。高硬度が求められるため硬質クロムメッキ処理を施していましたが、焼き入れや焼き戻し、ひずみ取りからクロムメッキの工程まで、すべてをLASERTEC 3000 DED hybrid の1台に置き換えられると分かりました。同機のコーティング時間は1分半で終わります。6台の機械を使って14日以上かかっていた従来の工程が、粗加工から仕上げ、研削まですべて含めても2時間以内で製造できます。リードタイムが大幅に短縮でき品質も安定しています。外注していた工程をすべて内製化するためドローバー専用の機械を現在作っており、来年4月から量産に入る予定です」

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切削加工とDED方式のAMが行えるLASERTEC 3000 DED hybrid。リードタイムの大幅低減を実現する。

■AMによる工程集約で脱炭素

――EV部品へのAM活用の可能性は。

「EV化により歯車の数は減りますが、精度は上がり高機能が求められます。私が歯車機械の設計に携わっていた頃にハイブリッド車が現れ、歯車の精度が急激に上がりました。EV化でも同じことが起きており変革が迫っています」

「歯車の製造工程では炉に入れる焼き入れをしなければなりませんが、LASERTEC 3000 DED hybrid では機内でギヤコーティングが可能で、焼き入れが不要になります。そして我々と某自動車メーカーの試算を比較したところ、CO2排出量を約半分まで削減可能と分かり、カーボンニュートラルを達成したいお客様からも強い引き合いをいただいています」

――昨年は伊賀事業所と東京グローバルヘッドクォータに金属積層造形の受託加工サービス拠点を開設されましたが、手応えは。

「この2拠点は日本とアジアを中心に行っており、今年に入って件数が非常に増えています。準備している機械も人数も足りず、我々の機械を導入しているお客様にお願いして、お客様とお客様を繋ぐという形での提供もしています。特にSLM方式(パウダーベッド方式)は複雑な加工を得意とすることもあり、試作の要望が多いですね」

「奈良の商品開発センタの開発検証用の機械も稼働している状況で、機械購入を前提としたテスト加工も合わせると3、4カ月先までいつも予約は埋まっています」

――今年はAIが話題になっていますが、どのように組み込まれていきますか。

「お客様への提案ソフトウェアを現在開発中です。また、AI担当としてコンピュータサイエンスをドイツで修めてきた技術者をチームに迎えて積極的に取り入れています。出力条件を音声で尋ねれば答えるようなものは既に開発しており、実際どういう形がお客様に受けるのかカスタマーボイスを集めているところです」


■AM分野の大幅成長へ

同社が手掛ける金属AMの加工方式はSLM方式とDED方式の2タイプ。ミルフィーユ状に層を積み重ねるSLM方式は、複雑形状や、チタンやアルミなど活性金属の造型を得意とする。一方レーザビームによるDED方式は内側と外側に異なる材料を使用するバイメタル造形や、切削加工との複合に適している。金属材料の組み合わせの配合も調節できる点も特徴だ。

この2方式を両軸に「25年度末には200億円の売上になる」(同社)と見込む。

(2023年9月10日号掲載)