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パワーウェーブ 代表取締役社長 阿部 晋士 氏

無線給電が移動を変える暮らしを変える
充電残量を意識しなくてよい社会へ

身の回りの電化が加速している。そうした中で一番課題となっているのが充電だ。特にEVを中心としたモビリティはその問題の大半がバッテリーに起因していると言っても過言ではない。「充電のことを気にしなくて済むようなモビリティ社会」が実現したらどうだろう。モビリティの姿や関連システム・サービスが大きく変わるのではないだろうか。そんな未来を目指し、無線給電装置の開発に取り組むのが豊橋技術科学大学発ベンチャーのパワーウェーブ(愛知県豊橋市)だ。

一般的に無線給電装置に使用される磁界結合方式は、電柱の変圧器などにも使われる古くからある技術で、今ではスマートフォンの無線充電などにも使用されているが、高い位置精度が求められる点がモビリティへの無線充電を考えた際の課題となっている。そうした現状に対し、同社が新たに提案するのが電界結合方式だ。静電気の力を用いて電極板から電気エネルギーを遠隔送電するもので、同社の阿部晋士社長は「従来の磁界結合方式では±数㌢単位の位置精度が求められる。電界結合方式であればズレが1㍍あっても問題ないほどの柔軟性を持つ。モビリティへの給電としては、電界結合方式の方が優れていると思う」と述べる。

他にも、電極板を使用しているため送電側の装置の厚みを薄くできることや電極部の発熱が少ないため安全性を確保しやすいことなどメリットが多い。しかし、電界結合方式で無線充電するには数メガ㌹(送電線が50㌹)もの高い周波数の電気が必要であり、高周波に安定的に変換する技術が確立されていなかったため活用されてこなかった現実がある。加えて、移動体に対して給電するため、様々な運動要素がある状態でも高効率かつ安定的に高い周波数に電気を変換する必要があった。

5年の開発期間を終え、現在は要素技術を確立するまでに至っており、この1年は実証実験を積極的に行っている。既に公表している電動キックボードやアイシンのILYAiなどパーソナルモビリティに対する実証だけでなく、様々な企業や自治体との実証を進めており、今年中には充電能力1㌗の製品を出す予定だ。

「私達が明確に負けているマーケットに対する遅れの部分を解消するため、来年からはどんどん表に出ていくフェーズになると思っている。パーソナルモビリティや工場などのAGV/AMRに対してであれば、近い将来、当社の製品が搭載されている可能性は十分ある。EVに関しては法やインフラの整備が必要になるが、想像よりは早いペースで出せると思う。スピード感を大事にしながら成果を出していきたい」(阿部社長)

事業を現実的に進めながらも、阿部社長は無線充電装置が普及した先の社会について見据える。

「今はどうしても充電のことばかりを気にしないといけない。充電について誰も気にしない社会、充電という概念がなくなるような未来を作りたいと考えている。EVであれば駐車中だけでなく走っている時にも道路から給電されて、全てのドライバーが充電残量表示を見なくて済むようにしたい。製品・サービスづくりにおいて充電のことを意識しないで済むのであれば、その設計や展開方法は大きく変わって来る。そうなれば、もっと多様で柔軟な社会が想像できるのではないかと思う」

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トヨタ車体製の超小型BEVCOMS(コムス)」を使用した実証実験の様子

(2023年9月10日号掲載)