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松浦機械製作所 取締役 DX推進室長 松浦 悠人 氏

人手に頼らぬ生産強化へ布石

本社工場と武生工場の統合に、基幹システムの刷新。松浦機械製作所では今、同社のモノづくりを変えうる2つの改革が同時並行で進んでいる。DX推進室長として基幹システムの刷新を進める松浦悠人取締役は「いかに人手に頼らず生産能力を維持・拡大できるかを重視している」と取組みの狙いを語る。製造業の人手不足に拍車がかかるなか、無理な設備投資やリクルートに頼らない成長をたぐり寄せる。

――景況感は。

「我々は12月決算なので今が期初。昨期ほど潤沢な受注残はないものの、例年比でそう悪くもありません。直近はモータースポーツや半導体が好調でした。地域別では昨年は欧州が良く、今も一部の国が踏み留まってくれています。他の地域は日本含め落ち着いていますが半導体と航空機がやがて上向くと予想されます。その意味でも今期は後半が勝負です」

――本社工場と武生工場を統合されます。狙いは。

「契機は本社工場の老朽化と、コロナ禍で工作機械の販売が好調に推移したこと。海外販売店の増産要望もあり、互いの成長のため供給体制の強化が必要と判断しました。武生工場に新棟を建てて本社工場の組立機能を移管し、スペース的なボトルネックを解消しつつ効率を高めます。本社の空くスペースは加工の強化に充てるなど有益な用途を模索します。まだ先ですが最終的に生産能力の20%アップを目指します」

――基幹システムの刷新も並行されています。

「今の基幹システムは十数年前のもの。その前のシステムから数えれば約30年、我々の生産の考え方は変わってないとも言えます。3軸機を大量生産していた30年前と違い、今は5軸が主で仕様の組み合わせも膨大です。今は大量生産に向いた基幹システムを各部署がカスタマイズして一品一様の生産に対応していますが、複雑化が進んでおり長期的には立ち行かなくなるという危機感がありました。数年前の経営体制の変更を機に、全体最適を志向した刷新に着手しました」

――システム刷新で目指す姿は。

「最終目標は生産のモジュール化。部品を共通化してモジュール化し、品質を確立しつつ設計工数の削減を狙います。今までは部品を共通化してもシステム側がそれに対応しておらず工数の削減効果が思うように得られませんでした。システム上で部署間の連携が取れていないのも課題でした。例えば部品をモジュール化し中間品として在庫するなどして、仕様変更に対する柔軟性を持たせつつ社内的な効率化を図るのが理想です」

――理想を山に例えれば今はどのくらいの地点ですか。

「富士山で言えば、5合目に向かうバス停の列に並んで待っているくらい。要するに今は基幹システムの要件定義の真っ最中で、モジュール化はまだまだ先の目標です。とはいえ今後はメーカーのあるべき姿が変わると思っていて、システムの刷新は必要なステップだと捉えています」

■人手頼りは限界

――メーカーのあり方はどう変わる。

「今までのあるべき姿はお客様のために少しでも生産台数を増やし納期も早めて成長を果たすことでした。しかし足元の労働力不足は深刻なペースで、特に福井県は全国でも最も有効求人倍率が高い。長時間無人運転を可能にする我々の機械自体の市場は今後も拡大が見込めますが、人手頼りの生産では市場の成長に我々自身が追いつけないと考えています。工作機械は長く付き合うものですから、無理な成長戦略を描いて苦しみながら生産する企業は頼りづらいでしょう。今後はいかに人に頼らず、自らに可能な範囲で生産能力を維持・拡大できるかが重要だと考えます。基幹システムの刷新と工場の統合はそのための土壌となるものです」

――新規で攻略したい市場はありますか。

「我々の売上の大半は先進国で、アジアの比率は中国を含めかなり低い。ひと昔前の中国では人が張り付いて生産する方が費用対効果が高く、我々の機械は目を向けてもらえませんでした。しかし今後は急速な労働人口の減少が見込まれ、無人運転できるマツウラの機械需要が高まると思われます。SNS経由でタイやベトナムから声がかかることもあり、そうした人件費の高騰が見込まれる国々はたとえ後発でも攻めるチャンスのある市場です。ただ、それはあくまで少し先の話であって、現在の先進国中心のポートフォリオでも成長の余地はかなりあると考えています。今はまず需要の集中に追い付けるだけの供給体制の整備がマスト。既存のお客様の成長に合わせ、自分たちも成長を目指します」

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武生工場完成予定図

■動画で頭抜けた存在に

「会社全体がショールーム」を合言葉に、“実物を見せる営業”を得意としてきた松浦機械製作所。しかしコロナ禍を機に動画を用いたオンラインマーケティングに注力し、内製した1000本以上の動画を国内外に公開してきた。顧客が抱くであろう疑問の答えを先回りして動画で用意するサービス「MyMatsuura」も軌道に乗せ、動画活用はすっかり得意技だ。

(2024年3月10日号掲載)