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MSTコーポレーション、新提案「ミルボア」

穴加工に新風吹き込む

MSTコーポレーションは2月21日発売の、ボーリング加工の新ソリューション「焼ばめホルダスリムライン『ミルボア』の普及に注力する。ボーリングヘッドでの加工には「人による寸法調整が必要」、「加工径ごとにボーリングヘッドが必要」などの諸課題がある。「穴加工と言えばボーリングヘッド一択」と思われがちな市場に新風を吹き込むべく挑んだ開発チームの中村秀史氏、川野塁氏らに話を聞いた。

ミルボアを手に開発チームの中村秀史氏(右)と川野塁氏

ミルボアは、切削工具メーカー各社から発売されている交換式工具を装着し、ヘリカル加工で穴あけを行うホルダだ。西部営業グループ第1チーム中村秀史リーダーは新提案の前提として「工作機械のヘリカル補間の精度が年々向上し、高精度で真円に削ることができる。またφ16以上の超硬ソリッドエンドミルが比較的高価なため、ヘッド交換式工具のバリエーションが増えている」と説明する。

「今回は『モノからコトへ』の方針の中、新製品というよりは既存技術・製品を活用しての新たな加工法の提案であり部署横断で取り組んだ」(吉田圭志取締役)という。現在、穴加工では、ボーリングヘッドでの加工一択といえる状況であり、いくつかのデメリットも「そういうもの」とそもそも問題視されていないという。ゆえに開発時には、ボーリングヘッドの加工現場で「解決すべき課題」を洗い出す作業に最も苦労した。

ボーリングヘッドの寸法調整は、まず試し削りを行い、その狙い寸法と実加工寸法との差を微調整ダイヤルにて手作業で調整を行う必要があり、高い寸法精度を満たすためには熟練技能が必要となる。一方、ミルボアは機械NC上の数値入力のみで寸法調整できるため作業者の習熟度を必要としない。

また加工についてはボーリングヘッドの場合、工具の振れ回りを利用した連続切削のため切りくずが分断されずに加工不良や予期せぬ機械停止につながる可能性がある。一方、ミルボアはヘリカル加工による断続切削のため切りくずが細かく分断され、切りくずトラブルを防ぐことができる。熟練作業員不足と省人化ニーズを満たす今日的ソリューションとしてミルボアは市場開拓に挑戦する。

「ユーザーの加工形状はさまざまだ。ベースホルダ部分の干渉がなく、またバリエーションが多い焼ばめホルダスリムラインと、さまざまな長さの超硬アーバを組み合わせることで、約1200通りの中から最大限の剛性を確保した状態で加工を行なうことができる」とし「ミーリングチャックなどでも同じことはできるが形状によっては超硬アーバを長くせざるを得ず、必要な剛性が確保できない」(中村リーダー)という。またセッティングした状態で提供するので焼ばめ装置は不要で、導入コストが低く抑えられる。

■人の作業なく自動化へ貢献

ただし加工時間では、ボーリングヘッド加工のほうが2~4倍早い。そのためミルボアは少量多品種生産の現場に適する一方、大量生産では長所を生かしきれないようにも映る。だがミルボアでは工具摩耗時に、人の手による調整が不要で工具径補正により追い込めるメリットもある。「加工時間が長くなるのは事実だが、人の手が必要な部分が大きく減らせるので稼働時間は伸びる。トータルで見ると大量生産の現場も含め多くの加工でメリットがある」(吉田取締役)とする。

技術部C&RセンターBチーム川野塁主任は「ボーリングヘッド加工における、人の手による寸法調整などを自動化するのはかなり困難だ。ミルボアは人の作業を排した新しい方法であり、自動化への早道となる」と付け加える。

しかし新たなソリューションゆえにすぐにユーザーの理解が得られない苦労もあるという。特に「古い工作機械で削ると精度が出ない」と誤解されがちだ。

「穴の表面粗さ・真円度・円筒度も、ボーリングヘッド以上に精度良く仕上げられる」(同社)とし「10年前、20年前の工作機械でも実験している。穴寸法、表面粗さ、真円度、円筒度も10ミクロン以内の精度で削れるが、確かに工作機械が古いほど精度は若干落ちる。とはいえボーリングヘッド加工のボリュームゾーンの加工精度は公差20ミクロン程度であり、多少機械が古くとも精度が問題になる場面は少ない」(中村リーダー)という。しかしやり方をがらりと変えることへの漠然とした不安を払しょくするには時間を要しそうだ。

展示会への出展、工場見学時に実際にデモを見てもらう、などの地道な普及活動のほか、動画を使ったPR活動を続けていく。「焼ばめホルダが普及するまでも何年もかかった。時間をかけてミルボアのメリットを伝えていきたい」と声をそろえた。

2023610日号掲載)