日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

Voice

オーエスジー デザインセンター開発グループ 穴開け開発チーム エンジニア 小野 桂太 氏

盛上げタップ新製品「A-XPF」、「高速・安定」かつ「止まらない加工」を実現

自動車では約3千本、航空機で約1万本のねじが組み込まれている。激しい振動でボルトが緩まないように、ねじ穴加工には高品質で高性能なタップが使われている。そのねじ切り工具における世界シェア3割強を誇るオーエスジーが、盛上げタップを新たに開発。この3月より市場投入している。その開発を担当した同社デザインセンター開発グループ穴開け開発チームエンジニア・小野桂太氏に新製品の特長について話を聞いた。

――3月に盛上げタップ「A―XPF」を発売されました。狙いを教えて下さい。

「省人化やラインの安定稼働に対するお客様のニーズが強くなっています。それを実現するツールとしてA-XPFを発売しました」

 ――切削タップとの違いを教えて下さい。

A-XPFは、材料を塑性変形してめねじを形成する盛上げタップです。加工時に切りくずが一切出ません。加工工程は切削タップと同じですが、下穴を少しだけ大きめに開け、材料を変形させ、ねじ山型にします」

――塑性変形だと必要なトルクや力も増えるイメージです。

「トルク自体は切削タップに比べ2倍ほど上昇します。工具をワークに押し込む力が大きくなるイメージです。ただ、最近は加工機自体の性能も上がっているのでBT30の機械でもM12くらいまで加工対応できるレベルにあります。さらに大きいサイズだとBT40の方が安定して加工できますね」

――切りくずゼロには、どんなメリットがありますか?

「タップ加工における大敵が切りくずです。切りくずが出ることでタップに欠けや折れが生じてしまうケースが少なくありません。そのため、省人化が難しいとされています。盛上げタップは切りくずが全く出ないのでトラブルをグッと低減します。切削タップに比べてトルクの上昇や下穴加工の管理がシビアになりますが、それらを凌ぐ圧倒的なメリットがあります」

――推奨の切削条件表をみると、従来品の盛上げタップと比較して加工領域が大幅に広がっています。

30HRCのクロムモリブデン鋼(SCM)を加工する場合、従来品では不水油性油剤で毎分5~10㍍が一般的でしたが、A―XPFなら水溶性油剤で毎分30㍍位でも加工できます。低速でも問題なく加工できるため、幅広い切削速度に対応します。よく使われる低炭素鋼や中炭素鋼では毎分50㍍でも問題ありません。高炭素鋼においても、切削タップ並みに早い加工が可能です。また、これまでの盛上げタップは被削材など詳細に渡る加工知識が必要でしたが、細かい知識が無くてもお使い頂けます」

――切削タップですと加工中にトラブルが生じやすいSCMにも対応できるのですね。 

SCMはベアリングによく使われる材料ですが、ネジの多いベアリングではタップが加工途中で停まると人の手が必要になります。A―XPFは『止まらない加工』を実現するタップとして、無人加工ニーズにも応えられます」

――従来品から大幅に能力向上したポイントを教えて下さい。

「大きく3つのポイントがあります。1つ目は、食付き部に特殊仕様を採用しました。タップの反力が従来製品より低く、スラストの波形が安定する仕様となったことで、タップがワークに食付きやすくなっており、長寿命化だけでなく折れや欠けを防ぎます。

2つ目は、母材を溶解ハイスから粉末ハイスへバージョンアップしました。製造コストは上がりますが、耐久性も上がり幅広い被削材に対応できます。30HRCなど硬く摩耗しやすい材料ですと、より効果が出ます。

最後に大きな変化として、当社では30年ぶりにタップ専用VIコーティングを開発しました。これまで汎用性の高い『Vコーティング』を採用していましたが、より熱に強いコーティングを生み出し、高速加工を可能にしました」

――貴社のVコーティングは切削工具において高い評価を受けています。Vコーティングとの違いは。

VIコーティングは、耐熱性が大きく向上しています。盛上げタップは加工点の発熱量が多く、耐熱性が必要となります。しかし、工具鋼は熱が加わると柔らかくなります。単純に強度・耐熱性が高いコーティングにするとコーティング層に割れが発生し、剥落してしまいます。そのため発熱しても摩耗しない、かつ割れないという特性を持つタップ専用のコーティングを開発する必要がありました。コーティング開発部署とすりあわせ、相乗効果が出る組み合わせを60通り以上試行錯誤しましたね。結果として、割れが発生しないものを完成させることができました」

――今後のA―XPFの展開は。

「今後、盛上げタップに対するニーズは確実に増えてくると見ています。そのニーズを的確に捉え幅広いお客様にお使い頂けるよう、今後はラインナップを拡充し浸透を図っていきたいですね。国内のみならず、海外でもセールスを強めていきたいと考えています」

spe_a-xpf_visual01.jpg

盛上げタップ「A-XPF」

2023410日号掲載)