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ダイヘン 溶接・接合事業部 新接合・加工技術企画部 小野 貢平 部長

次世代接合ソリューション「CSJ」

世界の溶接業界をリードしてきたダイヘンが昨年11月、超ハイテン材等「難接合素材」において、強度などの素材特性を確保したまま接合できる新技術「コールドスポットジョイニング(CSJ)」を大阪大学と産学連携で開発した。EVシフトに伴う車体軽量化を狙い、自動車各社が超ハイテン材の導入やマルチマテリアル化を進める中、溶接・接合におけるパラダイムシフトとなりうるCSJについて、同社の新接合・加工技術企画部の小野貢平部長に聞いた。

脱炭素、EVシフト時代の新技術

――自動車関連に強みを持つ貴社溶接・接合事業ですが、昨今の業況についてお聞かせください。

「自動車関連を全体で見ると大きな伸び幅は無いかもしれませんが、それでもEV関連が伸び始めていると実感しています。こうした変化に対して、受け身ではなく新たなソリューションを当社から提案していかなければならないと考えています」

――昨年の11月には新たな接合技術を開発、提案されました。

EVにおける電費向上を狙って、各自動車メーカーにおいて超ハイテン材やアルミ合金といった軽量化材料の採用が進んでいます。これらの接合に対し、当社が新たに提案しているのが溶かさない接合手法『コールドスポットジョイニング(CSJ)』です。こちらは従来の溶接では困難な15ギガパスカル級の超ハイテン材の接合において、強度などの素材特性を損なわず接合を達成します」

――現在、一般的な接合方法としては抵抗スポット溶接が採用されています。

「抵抗スポット溶接は、母材を高温で溶融するため接合部の硬化や熱影響部の軟化などにより接合部分の強度低下や品質面に問題が生じてしまいます。それによって素材の特性を最大限に活かした薄板化、軽量化を断念しているケースもあります。こうした課題に対して、素材の特性を損なわない『低温』での接合を実現したのがCSJです」

――低温での接合とは何度くらいなのでしょうか。

「一例になりますが、機械構造用炭素鋼S45Cにおいて従来の抵抗スポット溶接は約1600度で加熱し母材を溶かして接合しますが、CSJはその半分以下の700度程度で接合することが可能で、母材を溶かさず固体の状態のまま接合します」

――CSJの接合プロセスを教えて下さい。

CSJは専用のインバータ式溶接電源と定置式のサーボプレス機、独自開発の加圧電極アセンブリで構成されています。この電極アセンブリは超硬合金の加圧軸と銅電極の二重軸構造です。まず加圧軸で母材を加圧し、接触面に突起を形成します。続いて電極を母材に接触させ通電し、低温域で軟化した母材を加圧軸で押し広げて接触面を接合します」

■省エネ・脱炭素にも貢献

――低温での加熱ですと、エネルギーコスト削減にも繋がるのでしょうか。

「抵抗スポット溶接と比べ、CSJで使用する電流は低くなるため、消費電力の抑制やコスト削減も十分に見込めます。また抵抗スポット溶接で課題となるチリの発生がないため除去作業の手間も省け産業廃棄物削減にも繋がります。加えて、電極の長寿命化によるコストダウンも期待できます」

――車体軽量化にどれくらい貢献するのでしょうか。

590メガパスカル級のハイテン材と1.5ギガパスカル級のハイテン材の比較ですと、車体を最大約33%軽量化することが可能になります」

――他の材種への対応はいかがでしょう。

「車体軽量化によく使われる素材のひとつにアルミ合金がありますが、こうした比較的柔らかい素材にも適用できます。アルミ合金の接合で課題となるのが熱影響部の軟化による接合品質の低下です。これを大幅に抑制し安定した接合を実現します。また今後は2ギガパスカル級の超々ハイテン材にも対応していきます」

――需要家の反応と今後の展開についてお聞かせください。

「すでに自動車関連を中心に、多くの引き合いを頂いています。まずは定置式にて様々な試験をして頂いている段階です。今夏には量産での接合にも対応できるよう、ロボットガン式の発売も予定しています。今後の展開としては、新たな難接合素材への対応や異種金属同士の接合を可能にする製品開発と、自動車業界にとどまらず、モノづくり業界でお役に立てる接合ソリューションとして、しっかり提案していければと考えています」

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2023410日号掲載)