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元キリンビール副社長 田村 潤 さん

「らしくない」と言われたら危機?

「みなさんの会社がみなさんの会社らしくないと言われたら危機です」

そう警笛を鳴らすのは元キリンビール副社長の田村潤さん。

「『らしさ』が強みなんです。『らしさ』がわからなくなって右往左往している時に味を変えたのがキリンビールでした」

キリンビールは1980年前後の14年間、60%超の国内販売シェアを握り続けた。ところがその後急落し、2001年には48年ぶりに首位の座をアサヒビールに明け渡すことになった。その背景にはラガービールの特徴である苦みを抑えたことがあるという。

「苦みをなくした時は味のことを考えていなかった。調査はするんです。若い人が苦みが嫌いだという結果が出れば、これからは若者、女性の時代だから、彼らを取り込むために苦くない味に変えた」

調査結果に基づく味の改良自体は悪くないように思える。何がいけなかったのか。

「本当に大事なのは今キリンを飲んでいるお客様なのに、その人たちのことを全然考えなかった。新しい客は来ない、今の客は離れていく。それでキリンが何者かがわからなくなった」

ところが5年後、首位を奪還することができたのは既存客を徹底して大事にする活動を、客離れが激しかった高知県から全国へ展開したからだった。「飲んでくれていたお客様を大事にすることで何がおこったか。アサヒに切り替えた人が気づいてくれた。キリンはこんなに自分たちを大事にしてくれているんだと」

メーカーはとかく若者、女性のニーズを追いかけたがるが、忘れてはいけない、変えてはいけない大事なこともある。そのことを田村さんは訴える。

525日、さいたま市のパレスホテル大宮で開かれた北関東・東北山善エース会の特別講演会から)

2023710日号掲載)