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安田工業 技術部 新規事業開発課 主任 中尾 裕生 氏/技師 木下 祐輔 氏

高精度の成形研削盤と自由度高いソフトが生む静かな歯車

高精度と高耐久の工作機械で、世界から機械づくりの信頼を寄せられる安田工業。ハイエンドの機械づくりを踏襲した歯車成形研削盤は、高精度加工と3次元歯面修整により複雑な歯面を実現する。開発を手掛けた技術部新規事業開発課の中尾裕生主任、木下祐輔技師に同社加工機の強みとこだわりについて聞いた。

技術部新規事業開発課 木下 祐輔 技師(左)/中尾 裕生 主任

――近年の貴社歯車加工機における受注状況は。

木下「当社の歯車成形研削盤『GT30』は、量産加工向けではなく多品種少量生産や研究開発用途の試作などで使われている歯車研削盤です。元々の市場が大きくないという背景もあり、コロナ禍では引き合いの件数自体が減少しました。ですがここ1年ではテストカットの要望や導入検討の声が増えており、明るい兆しは出ています」

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歯車成形研削盤 GT30

――EVシフトによる歯車加工のニーズの変化は。

木下「内燃機関がモーターに置き換わり歯車がなくなるのでは、という見方が当初はありました。しかしモーターひとつで高出力を出そうとするとモーターサイズも大きくなります。モーターの大きさと消費電力を抑制するためにも減速機構は必要になるというのが今の流れです。  

それに伴い、部品数は少ないですが歯車に求められる強度や静粛性に関わる部分の精度はより厳しくなっていると実感しています」

――歯車の騒音や振動低減ニーズがさらに高まっていると。

木下「エンジンを持たないEVはギヤノイズが直接聞こえ、静粛性が必須項目として見られるようになりました。減速機の静音に関わる歯形、歯すじ、ピッチ精度を上げることで消えるノイズはありますが、振動による騒音はゼロにはなりません。

自動車に使われるはすば歯車は、進行するにつれて同時に噛み合っている歯が2~3枚の間で刻々と変動します。そのためたわみが発生し、振動の原因となります。この変動をなくすためには、噛み合う長さをちょっとずらしてやること。噛み合い線の両端部を僅かに逃して噛み合うタイミングをコントロールすれば、変動がなくなり振動が減少します。歯車はインボリュート曲線で出来ていますが、理想的なインボリュート歯形から補正をかける『歯面修整』をGT30は専用ソフトウェアによる解析で可能にします」

中尾「修整された歯面は3次元的にねじれたような歯面となるため、ホブ盤やギアシェーパなど通常の切削加工では出来ません。成形研削方式であることに加え、ソフトでの緻密な解析と実際の機械動作による追従性がつくり出した歯面で理想の噛み合いを実現できる点が、GT30が提供する価値です」

――歯面修整により静粛性をさらに高めると。

木下「設計するのはあくまで自動車または減速機メーカーですが、我々は難しい歯車加工を機械とソフトの両面からサポートします。お客様が形にしたいものに付加価値を付けて生産するために、我々の機械でしか出来ない加工があると考えています」

中尾「また、最小φ50までの砥石がつけられることで、段付きギヤやインプットギヤも干渉を回避しながら加工可能。装置のコンパクト化にも寄与します」

――妥協ない機械づくりとして精度面のこだわりと、修整の自由度を高くもたせた機械です。

木下「組み立てて使う歯車は、組付けや力の加減で誤差が発生すると当たりが変になることも。噛み合いが始まる歯車の端部で滑らかに歯の接触ができるよう、歯面修整で両端を落とすレリービング加工も行えます。こういった自由度の高い修整を高精度に加工が出来るのも売りです。

専用ソフトウェア上で歯車の諸元や使用する砥石を設定し、加工工程を入力するだけでNCプログラムを自動で生成してくれ、機械動作も直感的な操作が可能なユーザーフレンドリーな加工機でもあります」

――今後の展望は。

木下「近年はポリッシュ研削でぴかぴかにする歯面がトレンドです。しかし、鏡面に磨き上げるだけだと、噛み合う歯の間に必要な油膜が形成されずに金属接触が発生してしまいます。面粗度を上げて伝達効率を上げるのと同時に、油膜形成のための10μ㍍ほどのオイルポケットと呼ばれる油の溝ができていることが必要になります。そういった歯車研削が今後求められる話があります。我々の加工機でどういった提案ができるか挑戦していきたいですね」

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GT30による歯車成形研削加工

安田工業株式会社

1939年設立、420

岡山県浅口郡里庄町浜中1160

工作機械製造および販売(マシニングセンタ、ジグボーラ、CNC歯車研削盤)、産業機械製造

1929年に安田信次郎が大阪市において「ストロング商会」を設立。国産初の自動車エンジンシリンダのボーリング加工および各種ピストンを製造。1944年、戦時強制疎開で岡山県に工場移転、社名を安田工業株式会社と改称。1960年代には横精密中ぐりフライス盤、マシニングセンタを相次ぎ開発。歯車成形研削盤の上市は2000年代初頭と比較的新しいが、「YASDA」の機械づくりノウハウとこだわりを盛り込むとともに、妥協することなくブラッシュアップを重ねている。

(2023年7月25日号掲載)