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複合加工機へ参入、攻めるは変種変量生産

FUJI 取締役 常務執行役員 マシンツール事業本部長 営業部部長 江 崎 一 氏

旋盤を中心とした工作機械メーカーとして知られるFUJI。量産対応に適した高精度の旋盤で自動車業界のモノづくりを牽引してきた。そんな同社は今年4月、「GYROFLEX T4000」を発売し複合加工機分野に参入。参入の狙いや豊田事業所で進む生産変革について、マシンツール事業本部長 営業部部長の江崎一取締役常務執行役員に話を聞いた。

足元の景況感は。

「全体的に盛り上がってきたものの、地域ごとに濃淡はあります。アメリカは完全に復調し、中国は春先は非常に好調だったものの直近ではやや一服感を感じますね。我々の顧客は自動車中心ですが、世界的な半導体不足に中国は敏感に反応しており、一方のアメリカは投資計画を予定通り進めている印象です。そうしたなか、最も復調が遅いのが国内市場。とはいえ一時期と比べ状況は確実に良くなっています」

—4月に複合加工機「GYROFLEX T4000」を発売されました。これまで旋盤中心でしたが、複合加工機分野へ参入した狙いは。

「世の中における生産形態の変化に追随するためです。欧米や中国はじめ海外では既に変種変量生産は幅広く取り入れられていますが、ここにきて国内の自動車業界でも大量生産から変種変量生産を取り入れるモノづくりに変わりつつあります。また、自動車以外の分野では既に変種変量生産と理解しています。そうした市場変化に対応すべく開発したのがGYROFLEX T4000。我々として初の旋盤ベースの複合加工機です。これを機に既存顧客の変種変量生産への移行に対応しつつ、変種変量生産を手がける新規顧客を開拓したい。一方で大量生産を行う既存顧客の重要性は揺らぎませんので、既存機種を小まめに更新しつつ双方のニーズに応えていきます」

—GYROFLEX T4000の特長は。

「まずはサイクルタイム。自動車業界はじめ我々の顧客はそこを重視しますから。左右に全く同じサイズ・能力のワーク主軸を配置しました。よくある『メインとサブ』ではなくどちらもメイン主軸です。加えて工具を15本搭載できるタレットを左右に搭載し、左右同時加工を可能にしています。内製のガントリーロボットも標準搭載しており、高生産性と変種変量に対応できる柔軟性を兼ね備えた複合加工機を実現しました。中量以上の生産に向いており、あるお客様のテスト加工において、加工時間をタイプの違う複合加工機より60%削減した例もありますが、常に課題はサイクルタイムと柔軟性のバランスです」

新機種投入も踏まえ、今後の有望領域をどう捉えますか。

「アメリカではすでにGYROFLEXの引き合いを複数獲得していますが、半数以上が自動車以外の業界。そうした分野——例えば一般産業機械や建機・農機など、変種変量生産かつ、ある程度の生産量を持つユーザーの要求に応えていきたいと考えています。ただ広大な市場に対しGYROFLEXは現状1機種ですから、シリーズ化は急務です。T4000の加工対象は中型~やや大きめのワークですが、対象ワークサイズやロボットの有無など市場の需要を見定めつつラインアップ拡充に繋げます」

■生販一体でビジネスモデルを変革

複合加工機分野への参入にあたり、販路拡大が必要になりそうです。どういった取組みを計画されていますか。

「販売網強化では商社との関係構築が最重要です。例えばアメリカでは現地子会社の傘下に複数の代理店を持っていますが、顧客はいずれも自動車が中心。自動車以外の産業集積地では代理店のない州もありましたので、GYROFLEXの発売に伴いそうした地域にも代理店を設けました。国内も今は自動車業界を得意とする商社との付き合いが深いですが、今後は幅広い業界に機械を広域に販売されている商社や、特定地域に強いローカル商社との関係も強化したい。ただしそれには現状のビジネスモデルを大きく転換する必要がありますが」

ビジネスモデルの転換というと。

「我々のモノづくりは従来、11台作り込む受注生産の専用機に近い形でした。生産を開始してからの設計変更対応に相当量の工数が必要なのですが、それを設計から見直します。具体的には、機械のベースとなる標準部分をある程度作り込んでから、そこに様々なオプションを加えて専用機的に転身させるアドオン型の設計を取り入れるわけです。要するに今まで『一品料理』だったものを、商社の商流に乗せやすい機械にすべく標準化を行います。汎用機を作る以上、納期やコスト面で明確なメリットを打ち出す必要があります。また、検収をいかにスムーズにあげていくかも課題です。受注生産と計画生産のバランスを取りつつ、生産の合理化を進めるなど大胆な改革を進めます」

そうした生産改革は具体的にはどのように進んでいるのでしょうか。

「主力機種である『CSシリーズ』と『TNシリーズ』の標準化と計画生産への移行は今年度中に目途がつく予定です。特に正面2スピンドル旋盤『CSD300Ⅱ』は既に生産変革を進めており、パイロット生産で検証を行っているところです。そうした取組みの一方、グループ会社のアドテック富士が手掛ける作業管理システム『adFactory』で製品1台ごとの計画と実績を1画面で見える化するなど作業管理も刷新しました。現状は上位の生産システムとadFactoryは切り離されていますが、上位からスケジューラーを介し生産計画が自動でadFactoryに流れるようにするなどDXも推進したい。設計変更に端を発するこうした取組みの結果、生産現場の変革も進み、例えばCSD300Ⅱの組立時間が従来比約60%になるなど既に成果も表れていますが、引き続き変革を進めていきます」