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オーエム製作所 取締役 工機事業部長 水田 博 氏

受注生産から即納対応へ 立旋盤トップメーカーの変革

創業70年を越える老舗メーカー、オーエム製作所。鉄道車輪用の旋盤は国内シェア80%を誇り、中・大型サイズの立旋盤も国内シェア7割を超える。重量物でも安定した加工を実現する立旋盤に向けられる直近のニーズを語って頂いた。

——昨今の業況をお教えください。

「2018年をピークに2019年から徐々に下がっていったのですが、2021年度に関しましては前期比で20%増加しています。当社の場合、上期より下期の数字が上がる傾向にありますが、2021年度の下期と今年度の上期は同等の受注となりそうです。下期も同様の推移になると見ていますので、通期でも昨年度以上にはなると思います」

——コロナ禍でニーズの変化はありましたか。

「コロナ禍前は航空機向けの需要が2~3割を占めており、次いで建設機械、重電、半導体関連、一般産業機械といった内訳でした。それが、コロナを経てガラッと様変わりしました。2019年度から2021年度にかけて航空機はほぼ受注ゼロになってしまいました。代わりに出てきたニーズがまずはエネルギー関連です。各国におけるカーボンニュートラル実現機運の高まりが追い風となりました」

——欧州ではエネルギー事情も逼迫しています。

「脱炭素への道筋として、ガスタービンや原子力での発電が見直されています。イギリスではエネルギーの安定供給に向けた中長期計画において、2030年までに原子炉を最大8基建設し、原子力も含めた低炭素電源の比率を6割から9割超に引き上げると発表しました。これを境に世界的にも原子力やエネルギー供給に対するマインドがガラリと変わり、大きな盛り上がりを見せています。これらの更新需要や補助金効果もあり、重電向けの設備投資が活発化しています。当社も航空機需要で失った2割の受注をこちらでカバーしつつあります」

——北米を中心に航空機需要も戻りつつあると聞きます。

「ゼロだったものがゼロでは無くなりつつあるという状況で、まだ本格的な回復には至っていないのではないでしょうか。北米における需要もまだら模様で、国際線向けエンジンの製造現場は閑散としているそうですが、国内線向けはフル稼働状態と聞きます。当社は国内線向けエンジンにおいて高い評価を受けているP社から引き合いを頂いている最中で、少しずつ回復傾向にあると感じています」

■生産性高める新技術を提案

——再生可能エネルギー市場も活発化しています。

「中国はいままさに『風力発電バブル』といった状況で、需要が爆発しています。6割以上の世界シェアを占めるGEとシーメンスの工場は中国にありますので、こちらのニーズを取り込む形で当社機械も直近で5割以上の受注増となっています。当社の競合となるのは台湾製の機械なのですが、円安効果もあって価格差が2割程度まで縮小していることもプラスに働いています」

——貴社製品の信頼感が価格差を埋めているわけですね。

「これまで工作機械各社が培ってきた日本製工作機械のプレゼンスも大きく作用していると実感しています。アジア各国では『メイドインジャパンの機械を持っている』ことが受注獲得の大きな強みとなります。加えて精度や耐久性といった基本性能がしっかりしていますから、価格差以上のメリットを感じて頂けるのではないでしょうか」

——旺盛な需要にはどのように対応されていますか。

「従来、当社は受注生産方式でやってきたのですが、これではユーザーニーズに応えきれないということで、完成品を在庫し出来るだけ即納できるスタイルに切り替えました。これが思った以上に好評で、特に海外で好反応を得られています。中国にも実機を展示しているのですが、置いたそばから売れてしまいます。とりあえず5台までなら在庫しても大丈夫なようにスペースを確保しましたが、いくら作っても5台分の在庫スペースが埋まらないほど好調な状況が続いています」

——来たるJIMTOFではどのような提案を。

「カーボンニュートラル時代のパートナー企業でありたい、を合言葉に、最新の加工技術要素を取り入れた『VTLex1600M』を出展します。こちらには新開発の20メガ高圧クーラントを搭載します。当社の高圧クーラントは10メガを一般的としていましたが、航空機などで使われるインコネルの加工においては切りくず排出性に若干の難があります。これを20メガまで出力を上げると、切粉を屑状にまで処理できます。同時に気化熱によって切削時の熱の上昇を大幅に抑制するので、工具寿命も圧倒的に長くなる上、ワークの仕上がりも向上します。こうした加工技術に加えて自動化など、トータルで脱炭素化にも繋がるソリューション提案を行います」

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JIMTOF出展予定の「VTLex1600M」

従業員の働きぶりを可視化


近年、自社生産設備におけるデジタル化を推し進めている同社だが、機械の稼働状況を通じ、オペレーターの働きぶりの見える化にも取り組んでいる。「これだけ働いてくれたからこの利益が出た、という詳細までを公開するようにしています。モチベーションの向上に繋げることが目的で、決して監視されている、と思われるようなカタチにはならないようにしています」(水田事業部長)。