日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

識者の目

コロナ後のニューノーマルを共に考えよう~10

製造業は自動車産業の燃料電池車に取り組もう

コロナ禍がここまで続くとは発生当初、誰も予想できなかった。

約1年、想定外の体験をしてきて学んだことは、ロックダウンや移動制限はコロナ感染への応急処置はできても、いずれ反動が来る。何度も繰り返すと、慣れによって効果が減少する。戦略を間違えると、感染抑止効果が少なく、逆に経済的ダメージが大きくなる等だ。同じことが、「脱ガソリン車」政策にも言える。間違った戦略に乗っかると、数年後に痛い目に会う。

日本政府は2030年代半ば「あと10年少し」で、すべての新車販売を「脱ガソリン車」にする目標を急に掲げた。仕掛け人が色々いるようで、週刊新潮1月28号にはテスラ社取締役・経産省参与だった水野弘道氏が儲けた記事が、文藝春秋二月号には大和総研チーフエコノミスト・内閣官房参与熊谷亮丸氏の『「脱炭素」こそポスト新自由主義の本命だ』の投稿文がある。熊谷氏の投稿文には、昨年12月半ばに菅総理の脱炭素宣言に対し豊田章男氏が「自動車産業としては、CO2排出量を2001年度から18年度にかけすでに22%削減した。2050年までの排出ゼロ目標には、現在火力発電に依存する日本のエネルギー政策の転換なしにはほぼ達成し得ない。乗用車400万台すべてをEV化したら、夏は電力不足、原発でプラス10基分の発電能力を必要とする」と指摘したことに対し、熊谷氏は「変革を求められているのは日本の自動車産業の方である。日本では、HEVでも十分『エコ』という認識だが、完全に電気だけで走らせるBEVとは世界の見る目が違う。欧州が自動車産業のゲームチェンジを仕掛け、米国も中国もそれに続く姿勢を見せる中、日本だけ独自路線では、いずれ衰退する」と述べている。熊谷氏こそ、欧州や中国、米国の戦略に嵌められているのであって、日本の製造業は戦略を間違えてはいけない。官製需要でなくユーザーニーズと合致した車が最終的に生き残れることを信じるべきである。

ガソリン車ゼロが地球全体でのCO2排出量削減や地球温暖化対策に効果があるのかの判定は、2050年以降にならないとわからない。しかし、中国・ドイツ連合はBEV開発に突っ走る。とくに中国はレアメタルを武器にBEVやバッテリー生産を国内に囲い込む。したがって日本の製造業は、しばらくはBEV部品の開発アイテムを中国や中国へのBEV売り込みを狙う日系メーカーに取りに行くのがよい。世界のコロナ収束までの主要市場は中国で、そこでのニーズはBEV新規部品開発である。

助成金等優遇措置でBEVを販売して、行き渡ってくると助成金を出せなくなる。それまでに車載電池のイノベーションは難しく、BEVのコストはあまり下がらず、低価格エコガソリン車へのニーズが戻ってくる。さらに、ポストコロナでは、アジア(東南アジア、南アジア)の経済発展が見込まれ、そこでの車需要はガソリン車である。また、次世代自動車はガソリン車からBEVではなく、HEVを経て燃料電池車(FCEV)になる。トヨタの新型MIRAIに注目し、FCEVの部品開発への取り組みをお勧めしたい。日本の部品メーカーの強みは「摺合せ」技術であり、BEVよりFCEVの方が「摺合せ」技術を求められる。

そして最後に、日本の製造業はまだしばらく自動車産業で行くべきと思っている。

オフィスまえかわ  代表 前川 佳徳
同志社大学大学院工学研究科および神学研究科終了。工学博士、神学修士。大阪府立産業技術総合研究所研究員、大阪産業大学デザイン工学部教授を経て、現在オフィス・まえかわ(ものづくり企業支援)代表。製造業のアジア(とくにタイ)展開支援を行っている。タイAlliance for Supporting Industries Association 顧問、日本・インドネシア経済協力事業協会顧問、日本キリスト教団伝道師などを兼務。専門はCG/CAE、デジタルものづくり。型技術協会元会長、現名誉会員、自動車メーカー・部品メーカーとのネットワークに強い。