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識者の目

真潮流~19

運動特性の長時間安定維持が今後の差別化技術に
-高度自動化を実現するためにも重要な技術課題-

工作機械は、自分の持っている特性を加工される工作物に転写することを基本的な原理として、繰り返し同じ精度の製品を作り出すことを可能にしている。これは、母親の遺伝子が子供に伝えられることに類似していることから、工作機械分野では、このことを「母性原理」と呼んでいる。英語では、Copying Principleと表記されており、直訳すれば「転写原理」であり、英語の方が、その内容を直接的に捉えた表現になっていると言える。

図は、旋盤で、円筒形状の工作物を加工している例である。図に示すように案内面の真直度が悪く、刃物台がそれに倣ってうねった運動をすれば、そこに取付けられている工具も同じように運動し、そのうねり運動軌跡が加工面にそのまま転写されるように設計されている。したがって、この案内面がまっすぐにできていれば、円筒度の高い製品が、何個でも生産できることになる。このように、工作機械では、案内面により母性原理を実現するための直進運動基準が形成されていると言える。

もう1つの基準として、回転運動基準がある。右図に示すように基準となる主軸の軸心運動に回転角度に応じた運動誤差があり、軸心位置が変化してしまうと、図のように真円の加工面形状は得られない。したがって、主軸受に転がり軸受を用いる場合は、軸受の内外輪とそれらの軌道面やその軌道面上を転がる転がり要素(球、ころ)の形状精度が重要となる。これらの形状精度が悪ければ、形状誤差を持った軌道面上を、形状誤差を持った転がり要素が転がり運動をすることになる。このような軸受では、当然のことながら、軸心振れの無い回転運動を実現できないことは明らかで、その運動がそのまま工作物に転写され、工作物の加工面形状は真円にはならない。

しかしながら、その運動に再現性があれば、その加工面形状を予測することができる。例えば、案内面が真直でなくても、その形状誤差を補正するように工具の運動軌跡を制御すれば、円筒度の高い製品ができることになる。だからと言って、案内面の形状精度は悪くても良いというわけではない。余計な制御を行うことは、補正という余計なプロセスが必要となり、コストも時間もかかり、その補正のための制御精度にも限界がある。

工作機械では、以上のように運動基準が変化しない、つまり運動精度がばらつかないことが重要となる。特に最近では、工程短縮を図り、高能率生産を実現するため、加工後、工作物の形状寸法精度をオンマシン測定するとともに、さらには、その計測結果に基づき、修正加工を行うことにより高精度化を図っている。このためには、工作機械が、加工中でも、計測機並みの運動精度とその安定性を維持できることが必要だ。

さらに、最近は、工作機械の稼働状態の見える化技術が進展し、その異常状態をAIを用いて判定する技術が開発されている。その判断の基準として、正常状態の回転運動や直進運動状態をAIに学習させる手法が採用されている。ところが、それら基準が、最初からばらついていれば、正常状態として学習させることもできない。このように、バラつきの無い、長時間安定した運動特性は、加工精度だけではなく、機械の異常を検知・予知・予測する知的判断の基準にもなっており、工作機械の高度化のための差別化技術として、今後ますます重要になっていくものと思われる。現在IoTを使ったものづくり現場の見る化や高度自動化などが進んでいるが、それらの成果を更に確実なものにするためには、この工作機械の運動基準の安定性をどう高めるかが重要課題と言える。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。