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真潮流~20

自給自足でものづくりに貢献する工作機械
-自給自足で自らを成長させる凄い機械-

工作機械は、機械を作る機械とされ、すべての機械の生みの親であり、母なる機械、マザーマシンとも呼ばれている。工作機械自身も機械であるので、自分自身も作れることから、正しくマザーマシンと言える。したがって工作機械は、全ての産業の基盤であるとされているが、その貢献の様子をまとめてみると図のようになる。

工作機械は、我々が日常的に移動手段として利用している、自動車、電車などを構成している多数の部品類を作り出している。さらには、毎日、家庭で便利に使っている、冷蔵庫、洗濯機を始めとした、多くの家電製品を構成している部品類も工作機械が作り出している。これら部品を組立てて、各種製品が作られていることから、工作機械は、我々の身の周りの機械類を直接的に作り出していると言える。

工作機械の貢献は、これだけではない。我々が生きていくための生活必需品をつくるためには、多くの産業機械が必要である。例えば、農産物や食品として我々が口に入れて食べる製品にするためには、農業機械や食品機械といった多くの産業機械が使われている。それらを構成している部品類も工作機械が作り出している。つまり、工作機械のお陰で、これらの生活必需品を作り出すための産業機械が、衣食住・医療関連産業で活躍しているのだ。このように、工作機械は、直接的にも、間接的にも、我々の生活を豊かにするために、大きな貢献を果たしていると言える。

ところが、工作機械は、これらの機械製品や産業機械を生み出すに当たって、さらに興味深いものづくりを行なっていることに気が付く。それは、図の左側に示す自給自足のものづくりサイクルである。工作機械は、ものを作り出すために、先ず、その素材が必要である。例えば、鋼材が必要となるが、鋼材を作り出すためには、製鉄、製鋼、連続鋳造、圧延などのプロセスがあるが、そこで使われる多くの産業機械は、工作機械が作り出している。この素材を、型などを用いて最終部品の形状に近い素形材にして、切りくずとして捨てられる素材を少なくするための機械が存在している。これらには、鍛造機械、鋳造機械、射出成形機、焼結装置などがある。車のクランクシャフトの素形材は鍛造品であるが、これをつくるのは鍛造機械である。さらに、工作機械は、加工の際に、工具や測定器、その他多くの周辺装置・機器を必要とするが、それらを直接的、あるいは間接的に作っているのも工作機械である。

従って、工作機械は、ものを作り出すために必要な、素材から、自分で使う道具類まで、全てのものを作り出している。「自分が必要な物を、自分で生産して、それだけで満ち足りた生活を送ること。自分の力で、衣食住すべてをまかなうこと」を、一般的には自給自足と言っている。工作機械は正しく、この「自給自足」でものづくりを行なっていると言える。

また、本図からわかるように、工作機械は、自分自身が使う各種機械要素を作り出す産業機械(工作機械)もつくり出している。この産業機械により、より良い機械要素が産み出され、工作機械はそれらを使って自分自身を成長させることができるのだ。さらには、自分で作ったより良い道具で、自分をより成長させながら、より良い物を作り出している。つまり、自足自給の中で、自己成長サイクルも創り出している特異な、面白い機械と言える。

この工作機械の素晴らしさ、凄さを、世の中の全ての人々にもっと知って欲しいと、改めて思う次第だ。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。