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識者の目

真潮流~21

工作機械も持続可能化を目指すべき
-ユーザとメーカ双方の持続可能化が必要-

SDGsという用語が、社会的にも一般的になり、地球規模での持続可能性の実現に向けての各種取組みが進められている。その中で、掲げられている17の目標をみるとものづくりに関連する事項と、ものづくりが果たすべき役割が多いと感じる。そのためには、ものづくりの中核の1つとして活躍が期待されている工作機械の持続可能化も進める必要があると考えられる。

そこで、工作機械自身の持続可能化のために必要となる対応策について考えてみた。その主な項目としては、表に示すように、工作機械性能・機能、ユーザの成長、ユーザとの繋がり、工作機械メーカの技術開発力など、4つの切り口での持続可能化が有効と考えられる。

工作機械性能・機能関連としては、具体的には、機械性能の安定性と成長が挙げられる。工作機械の性能として最も重要視されているのは、加工精度・品位であるが、それらにばらつきの無い製品を生み出すには、工作機械性能の安定性は非常に重要と言える。最近は、機上測定とそれによる補正機能の搭載は、工作機械の差別化技術として重要性を増しているが、この実現のためには、機械精度の安定性が重要となる。また、工作機械性能として従来から要求されている、機械性能の長期安定性を維持するための機械の長寿命化とメンテナンスフリー化も重要と言える。

さらに、機械の性能・機能を陳腐化させないで持続可能とする技術も重要と言え、ユーザの既設機械のレトロフィットにより、性能の維持、あるいは性能・機能アップが図られている。さらには、一時提案されていたが、ユーザの製造現場でモジュールの入れ替えにより工作機械をより高機能な仕様に変身できるリコンフィガラブルな工作機械も再度検討する時期になってきた。これに応えてか、JIMTOF2020 Onlineでは、牧野フライス製作所から、eMACHINEコンセプトの一環として、成長する機械の提案がなされた。

一方、工作機械納入後のユーザの持続的な成長支援も重要な課題で有り、NC装置の高度化に伴い、ユーザの学習支援機能、加工条件設定支援機能、各種気付きを与える稼働状態の見える化機能、さらには、ユーザの加工ノウハウなどのデータベース構築支援機能などが期待される。

ユーザとの繋がりの強化(持続可能化)も重要と言え、IoTを活用して、納入後のアフターサービスを充実させユーザとの繋がりを維持する取組みが進んでいる。例えば、ユーザの製造現場での納入製品の稼働状況の監視と故障時の遠隔診断サービスも行えるようになってきている。また、顧客が必要とする機能を持った機械を必要な時に、必要な期間提供するサービスも重要となっており、サブスクリプションビジネスが開始されている。このように、機械性能・機能を陳腐化させないためのサービス環境を提供することは、ユーザとの繋がりを持続可能化する重要な戦略と言える。

また、工作機械メーカとしても、顧客のニーズに応え続けるための技術開発力の持続可能化に取り組む必要がある。その一つとして、IoTによる納入機械の稼働状況データの吸い上げと分析により、次期開発機の戦略に役立てようとする取組も始まっている。更には、開発設計した製品技術の整理・記録・蓄積・有効活用する仕組みの確立も必要だ。

以上のように、ユーザとメーカ双方に取っての持続可能化技術とその環境づくりが重要になっていると言える。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。