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識者の目

真潮流~22

物(モノ)と事(コト)を分けない製品づくり
-良い物に立脚した事づくりが差別化技術の源泉-

ここ数年、「物(モノ)づくり」から「事(コト)づくり」への変革が叫ばれている。
日本は、モノをつくることに一生懸命になり、コト(サービスなどの付加価値)づくりを忘れているとの指摘だ

これは、「ものづくり」を「モノづくり」にしていることに要因があるものと思われる。既に本連載でも指摘しているように、「ものづくり」とは、企画構想、研究開発、設計、生産計画、製造、評価、販売、サービス、廃棄までの、製品を作り出すために必要となるプロセスすべてを包含した生産活動を指している。「ものづくり」を「モノづくり」とすることは、すでに、上述のプロセスの中の「製造プロセス」に重点が置かれ、他のプロセスが忘れ去られていると考えられる。

ここで、改めて、「事(コト)」とは何かを考える必要がある。現状では、何かサービス的なもので、ソフト的付加価値のイメージが強い。筆者としては、「事」とは、ユーザニーズを実現するための技術であると思っている。工作機械における、ユーザニーズとしては、高精度、高能率、多品種少量、省人・省力、安全・安心、低環境・省エネコスト、省スペース、高コストパフォーマンス、短納期、高サービスなどが挙げられる。日本は、これまで、素晴らしい製品づくりを行なってきたが、上記のように、「製造する」ことに重きが置かれ、要求されている「事(コト:技術)」の変化に気が付かないで、従来のままの製造という「コトづくり」を行なってきたところに、問題があったのではと思う。

更に大事なことは、「事(コト)」とは、付加的な価値ではなく、製品を創る段階で意図して、計画的に組込まれた製品価値(技術)であるということだ。つまり、物(モノ:ハード)と事(技術)を分けることは、危険であるということだ。より良い「物」があって初めて、より良い事(技術)が生かされ、より良い製品となる。より良い事があっても、良い物(モノ)が無ければ、良い製品にはならないと言うことだ。

しかしながら、前述の指摘の背景には、これからは、物(ハード)より事(サービス)がより大事になるというニュアンスも感じられる。これも改めて、見直す必要があると思われる。

この見直しのための取組みが、昨年のJIMTOF 2020 Onlineで示されたように感じている。例えば、機上測定機能搭載の工作機械が多く出展された。加工されたものをその場で、寸法測定を行い、合否判定する。これにより、工作物の移動とそのための準備作業を削減して、非加工時間を短縮し、高能率化する。さらには、加工したものを機上測定して、その値に基づき、補正加工、追加工を行ない、高精度化を図ろうとしている。このような機能の搭載も、重要な「事(技術)づくり」と言える。

これらを行なうためには、物(ハード)が悪ければ、正確な機上測定はできない。また、その結果を用いて補正を行なうに当たって、その物(工作機械)の安定性が重要で、当該の製品を測定したときと全く同じように、工作機械と工具が相対運動することが保証されていなければ、補正加工はできないということだ。良い物(ハード)があって初めて、良い「事(技術)」づくりができることを忘れてはならない。つまり、物(ハード)と事(技術)を分けない製品づくり(ものづくり)が大事と言える。

事(技術)はまねされやすいが、良い物(ハード)をつくるのは、容易ではない。その意味でも、良い物に立脚した事づくりが、今後の日本の差別化技術の源泉になると言える。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。