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識者の目

真潮流~17

入門書の役割は、その分野の全体像を的確に示すこと
-学ぶ道筋と動機を与えることも大事-

最近はIoT、AI、3Dプリンタ(3D積層造形)など、著者の専門分野外の新しい技術が進展している。その内容を「言葉の定義だけではなく、もう少し基礎的なことから勉強したい」と思うことが多い。書店に出向き、それらに関する入門書を探すのだが、なかなか良い書籍を見つけることができない。

探しているのは、技術の全体像が俯瞰的に易しく解説されており、その概要を理解するために学ぶべき基本的な項目が網羅されている書籍だ。「この書籍を読めば、自分の知的欲求をどの程度満たしてくれそうか」の見通しが感じられないと、その書籍の購入意欲が湧いてこない。

入門書は基礎を学ぶための書籍であり、広く浅く学べるよう、的確に全体像を示すことが重要であると考えている。難しい部分を省略し、一部の優しい項目だけを示すのは、不正確な全体像を示すことになり、入門書としてはふさわしくない。全体像を正確に示し、それを的確に理解するために必要な項目と、それら項目の全体像における位置付けが理解できるように解説する。これにより、「どの項目を学べば、全体像のどの部分が理解できるようになるか」という見当がつくようにするのが、入門書の役割だ。

著者は長年、工作機械分野で仕事をしてきたが、その全体像をつかめる、学びやすい、教えやすい教科書が少ないと感じていた。例えば、工作機械の構造、仕組みを教えるのに、多くの工作機械の教科書では、図の上部の右枠内のように、工作機械構造をユニット的機能要素ベースで解説するような目次構成としている。これでは各要素間の関係が不明確で、工作機械全体をイメージしにくいと感じていた。

そこで、上記のようなことを念頭に「初歩から学ぶ工作機械」(注1)という、基礎的な入門書を執筆した。本書では、同図の左枠内に示すように、工作機械構造を、一般の機械と同じ構成であるとし、基本的な機能要素ベースで解説することにした。つまり、機械の構造形態を決めている「主要構造要素」、それら構造要素同士を、必要とされる機能を付与しながら結合する「結合部」、主要構造要素のうち、運動する要素を駆動する「駆動機構部」という3つの基本的な機能要素から構成されているとした。

さらに、主要構造要素には機械のフレームとなる構造本体とその上で運動する主軸やテーブルなどの運動要素がある。結合部には、ボルトで締結されるコラムとベッド間のような固定結合部、主軸と主軸頭間のような回転機能を与えながら結合する回転案内結合部、サドルとベッド間のような直進運動機能を与えながら結合する直進案内結合部など、色々な結合機能を付与できる結合部が存在している。そして駆動機構部には、主軸駆動系のような回転駆動機構と、直進テーブル駆動系のような直進駆動機構があることを示して、それら構成要素の基本的な仕組みを解説した。

このように学ばなければならない項目を体系的に示すことにより、工作機械の仕組みを学ぶにあたって、「自分は工作機械というシステムのどの部分を学んでいて、これを学ぶと何が理解できるようになるのか」が分かる。逆に、何か知りたいことがあれば、何を学べば良いかの見当も付けられるようにした。さらに本書では、各構成要素についても全体像を示し、その構成要素を理解するためには、何を学ぶ必要があるかを示した。また、巻末には、より深く学びたい読者のために、学ぶレベルに応じた参考書を示した。

何かを学ぶ場合には、それを理解するための全体像をつかんでおくことは、学ぶ道筋が明確になり、学ぶ動機の持続的維持にも効果的と言える。

【参考文献】
1)清水伸二:新版「初歩から学ぶ工作機械」、大河出版、(2011

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。