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識者の目

中小製造業のDX推進、未来への新たなチャンス

分かりやすい3パターンで導入促進へ

我々人類は、ワクチン・治療薬が開発されるまで、COVID-19と共存せざるを得ない。しかも最近のウイルスの変異は早く、かつ急速に強力になりつつある。今後も更に強力なウイルスが登場する可能性を踏まえれば、備えの必要性は明らかだ。世界中の企業が、COVID-19の影響で大きく落ち込んだ業績を回復するため、第四次産業革命で急速に進展していたデジタル化を更に一気に加速する。我が国の中小製造業は、その早い流れに追従しなければならない。

中小のDX推進、定型パターンが鍵

2020年、ドイツの中小製造業研究の専門家との間でWeb国際カンファレンスを行った。私は日本側の代表を務め、ドイツ側はヘッセン州ミッテルヘッセン工科大学ビジネススクールのメンバーであった。

ドイツの専門家らによれば、「ドイツにおける中小製造業DXはまだまだ初期段階にあり、その導入を促進するためには、典型的な導入定型パターンを提示することが鍵である」というのが、関連研究関係者共通の認識であるとのことであった。

筆者も同様に、中小製造業のDXを進める秘訣は「単純でわかりやすい典型的な定型パターン」にあると考える。筆者は164月、自身が主催する「IoTによる中堅・中小企業競争力強化に関する研究会」を立ち上げ、207月までの間にモデル企業9社がDX投資を実施した。後述の上田市のモデル企業3社を含めた計12社の事例をまとめると、典型的なDX導入パターンはほぼ次の3つ(表参照)に絞られてきたと言えよう。

「見える化」は投資対効果大

最も企業のニーズが強い手法は、既存の生産ラインや機械設備の稼働データを「見える化」して、「生産ラインや機械設備の稼働率を上げる」又は「止まらない機械」を目指すことである。これは中小企業向けの内容として最も適していると言える。

生産ラインは「ちょこ停」がよくある。停止するたびに機械設備を止めて、現場の作業員は機械の復旧作業を行う。このため、生産ラインの稼働率は代替50%60%などという工場が多い。

そこで、機械設備からデータを収集し、「見える化」を実施する。そして「ちょこ停」するたびに、その原因が把握できるようにする。「ちょこ停」する頻度の高い原因から抜本的な対策をすれば少ない対策で大きな効果が得られ、稼働率が目に見えて高まる。

この「稼働率の向上」は比較的低額の投資で、飛躍的に大きなリターンが得られやすく、文系出身や情報通信以外の理系出身の社長にもとてもわかりやすい。例えば、売上高が50億円の企業が、DX投資として2千万円を行い、生産ラインの稼働率が+10%上昇したとすると、生産力が10%上がり、売上高が5億円増えることになる(実態はもう少し複雑であるが)。投資対リターンは2千万円の投資で5億円の売り上げ増である。

ペーパーレスで企業文化を変える

2の手法である「ペーパーレス化」は、文化や従業員の価値観の大転換のきっかけとしてとても有効である。ペーパーレス化によって確保できた時間・マンパワーは別の業務に振り当てられ、営業力強化と売上増にもつなげやすい。

日本の多くの中小企業では、紙文化に深くなじんだ労働集約な「人海戦術」の労働が長く続いてきた。DX時代の今、紙文化から抜け出し、「電子化」に踏み出すことが重要である。そのための第一歩がペーパーレス化で、現場で働く作業員にとって効率化や負担軽減につながる。今後とも電子化を進めることは、メリットを体験してもらえる良い機会である。

極めて長い期間、紙文化の労働集約的な作業に浸ってきたため、電子化導入に心理的な抵抗感が強い人もいるだろう。そうした現場の心理的抵抗感を取り除くためにも、「稼働率の向上」に取り組む前に、ペーパーレス化を行い、抵抗感を取り除くことは重要である。

3つ目の「リモートモニタリング」は新しい高付加価値の商品の開発であり、顧客のニーズがあるかどうか、買ってくれる顧客がいるかに依存する。そして全ての自社製品の稼働状況を自社内のモニターにおいて、リアルタイムで監視し、異常があればすぐにサービスマンを派遣できるなどといった商品販売後のアフターサービスを遂行できる体制を作ることができるかどうか、など難しい面があるため、これを導入し、売上を伸ばす企業は限られるだろう。

なお、筆者が16年に立ち上げた「IoTによる中堅・中小企業競争力強化に関する研究会」は、20年度から特定都市の中小DX推進と地域産業振興を図る形態に発展した。初年度の長野県上田市のプロジェクトではミヤジマ技研、信越明星、三葉製作所の3社が参加。上田市、関東経産局、筆者(プロジェクトリーダー)の3者の共同プロジェクトによりDX実装と産業振興を図り、良好な成果が計測できれば、次のモデル都市に移行する。

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今、DXという大きな時代の転換点にある。確かに、その大きな潮流に乗らなくても当面は困らない。経理課でソロバンを使い続けていても当面は困らないのと同様だ。だが時代は、ソロバンから電卓、エクセル計算、そしてRPAと進化している。その時代の波に乗れる企業が生き残っていけるのである。社長の決断は重い。

経済産業研究所 研究グループ リサーチアソシエイト 日本生産性本部 上席研究員 岩本 晃一 氏
1981年京都大学卒、1983年京都大学大学院(電子)修了後、通商産業省入省(行政Ⅰ種)。在上海日本国総領事館領事、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房参事官、経済産業研究所上席研究員等を経て、2020年4月から現職。香川県生まれ。丸亀高校卒。