日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として創刊来、
半世紀を超す実績を持つ日本物流新聞のWEBサイトです。
サイト独自の情報を増やしています。

検索

識者の目

真潮流~24

デジタル万能の時代における人間の役割
−デジタル/アナログツインを創出できる人材の必要性−

世の中、デジタル化時代で、デジタルが万能であるような錯覚に襲われる。そこで、製造現場のデジタル化がどのようなプロセスで実現され、現場の課題解決がなされているかについて整理してみた。

図に示すように、製造現場では、ものづくりに伴い、各種の物理的なアナログ現象が起きており、先ず、これらを収集し、デジタル化(AD変換)することが行なわれる。これらの物理的な現象としては、変位、振動、温度、映像など各種のものがあり、これらを高精度にデジタル化するには、そのための知識、ノウハウが必要となる。例えば、振動現象と温度変化は、その変化速度が異なるので、その特性に対応して適切な時間間隔でデータをサンプリングするなど、その現象の特性やセンサの種類に応じて、その対応が異なる。さらには、現場で起きる様々なアナログ現象の特性を理解し、デジタル化された情報の精度を的確に評価・判断できる人材が必要となる。

これら取得されたデータを用いて、製造現場を見える化するためには、これらデジタル化されたデータを更にデジタル処理して、必要なレベルのデジタルデータに再変換(DD変換)し、アナログ現象のより高度な見える化処理を行う必要がある。先ずは、その現象の変化が見えるように表示するとともに、しきい値を設定し、異常を知らせるという、「監視」レベルの処理がある。このしきい値の設定も的確に行わないと、意味のある監視を行うことはできない。次のレベルは、このデータを用いて、異常を発生する要因を見える化するための「分析・評価」レベルである。このために、各種統計分析、AIなどの手法が存在しており、数学的知識と情報処理技術を持った人間とともに、その分析データを評価し、要因をつきとめる現場に精通した人間が必要となる。さらには、「予知・予測」レベルとなると、やはりAIを使った分析技術が必要となり、その専門家と、現場の改善のために、何をどのように予測すべきかを考え、判断できる現場に精通した人間が必要である。

また、このようなデジタル処理により見える化されれば、それで終わりと言うわけではない。この後は、この処理されたデータを活用して、現場で起きている物理現象をより良いものにする対策が必要となる。ここでは、現場に精通した人間が、このデジタル処理されたデータを有効活用し、より良い製造現場にしていくためのデジタルからアナログへの変換(DA変換)が行われていると言える。これらのプロセスを通して、製造現場の人間は、より良い製造現場を実現するための多くのヒント、ノウハウを獲得しながら、現場の改善、改革案を創出していく必要がある。

このように、一連のプロセスでは、見える化されたデジタル情報を知識として活用できる、判断・思考力の高い、勘の鋭い人間の存在が必要となる。これも、人工知能で置き換える試みもあるが、その結果を判断し、必要な対策を実施するのは人間である。

見える化がクローズアップされ、先ずは正確なAD変換がなされ、それからデジタルツインを創り出し、課題解決に活用しようとしている。しかしながら、最終的には、上述のように、そのデジタルツインで示された情報からアナログツインを創出する必要があると言える。このアナログツインが、改善前のアナログ現場と比較して、飛躍的に改善されていれば、製造現場のデジタル化が成功したと言える。

このように、製造現場のデジタル化に当たっては、以上で述べたような一連のプロセスで必要となる、人間のアナログ的な判断・思考力がますます重要になるものと思われる。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。