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識者の目

製造業DX実現のカギ~第31回

日本が目指す「Society 5.0」とは

ここで日本が目指すべき未来社会の姿として政府が提唱している「Society 5.0」と「製造業DX」についておさらいをさせていただきたい。ここで「Society 5・0」を持ちだすのは、「製造業DX」を理解するうえで、非常に重要な概念となるためである。

「Society 5.0」の概念図(内閣府資料より)

5.0」があるということは、もちろん「10」からの変遷がある。特に「4.0」と「5.0」は勘違いしがちな大きな差があるため、ここで解説させていただく。

人間の経済活動、社会活動の始めを「狩猟社会」とすると、これが「Society 1.0」に該当する。この時代の人々は野生の動植物の狩猟や採集を生活の基盤とし、衣食住が不安定な原始的な社会とされている。次に土器や石器の進化によって、田畑を耕し作物を育てて収穫する農耕による定住社会が訪れる、これが農耕社会「Society 2.0」で、今日に至る社会基盤を形成したとされている。

続いて工業社会「Society 3.0」が訪れる。産業革命により製品の大量生産が可能となり、「大量消費」の始まりともなっている。社会基盤も農業から工業へシフトし、環境破壊もこの時から加速していく。

これに続くのが情報社会「Society 4.0」である。PCの性能向上、携帯電話やスマートフォン・高速インターネットの普及、各種ソフトウェアやサービスの進化などにより、情報の利活用が格段にしやすくなった。距離に関係なく、瞬時にあらゆる情報にアクセスできるようになり、情報が持つ価値やデジタルツールの活用による生産性向上が実現した。医療の例では、WEB会議システムを活用した遠隔診療などがこれにあたる。カルテや処方箋、レセプトデータ(診療報酬明細書)などのデータをデジタル化して、効率を上げることも該当するであろう。

では、「Society 5.0」ではどうなるか。情報をさらに粒度を細かく、リアルタイムに集めて、統合的に利活用することで、データ駆動で経済発展と社会課題解決を行うのだ。この世界では「データ駆動」というのが一番大事なキーワードとなってくる。先ほどの医療の話に例えるのであれば、遠隔診療やカルテや処方箋のデジタル化は単なるICT活用でしかない。さらにデータを集めて統合的に解析を行い、リアル世界にフィードバックして初めて「Society 5.0」の実現と言える。

■社会課題をデータが解決

医療では、ウェアラブル端末による健康管理などが期待されている。ウェアラブル端末は、機種にもよるが、体温、心拍数、活動量、血圧、睡眠モニターなどあらゆる情報が蓄積できるものが発売されている。時計やリングの形状をしていて、常時身に着けられるものも多い。

このデータを医療機関と連携して活用するのである。データを1カ月、1年と蓄積し、解析することで、体調が悪くなった際に医師の判断をしやすくするだけではなく、調子が悪くなる予兆をAIが捉え、受診を促したりすることもできるだろう。

今では唾液で簡単に「がん」や「生活習慣病」などに関する遺伝子を検査、病気の発症リスクや体質改善の遺伝子傾向を知ることができるサービスが比較的安価に提供されている。そのような遺伝子データと過去のカルテデータ、ウェアラブル端末から得られた情報を加味すると、受診をしなくとも、「あなたはこういう状況だから薬を送ります」と処方箋のシステムとつながって自動で薬が送られてくるということも、技術的にはできるはずだ。

データが蓄積・活用されることで現れるメリットは個人の健康管理だけではない。病気になってしまうメカニズムや、予防のためのノウハウの解明、医療器材や薬の開発にもつなげることができる。

交通サービスでも「MaaS」と言われる新しいサービスが生まれつつある。スマートフォンなどでルート検索し、あらゆる交通機関を組み合わせた最適な移動方法を探すだけではなく、出発から目的地までのルート検索から交通機関の予約と決済を一括で実施するのだ。

フィンランドの首都ヘルシンキでは、交通渋滞や環境汚染が深刻で、高齢化による「移動手段の確保」が課題となっていたが、ベンチャー企業「MaaS Global」とヘルシンキ交通局との連携により、公共交通機関や自動車・自転車のシェアリングをまとめて活用できるサービスとして実用化、個々人のメリットも当然ながら、社会課題の解決にもつなげている。

データを活用することで、より大きな問題解決につなげていく。このプラットフォームの構築とデータ蓄積、利活用が「Society 5.0」の本質となる。製造業DXはこの製造業版と捉えていただきたい。

2023310日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。